つまんない。

「何がですか」

驚いた、彼にはテレパシー能力があるらしい。

「違いますよ、思ったことが全部口から出ています」
「そういうのは聞き流してよ」
「耳元で独り言を呟かれるのは不愉快です、集中力が鈍ります」

そう言って本に視線を戻す。大体なんだ、集中力が鈍るって…読書するための?今貴方の目の前には貴方の彼女が居るのに?今日は一日オフだからゆっくり過ごしましょうって言ったのはトキヤなのに…いや、確かにゆっくり過ごしてるのか、トキヤは。それでもやっぱり構って欲しくて彼の肩に頭を乗せる。一瞬眉毛がピクリと動くが、本から視線は動かさない。…本格的に虚しくなってきた。何か話でもしようかと本を覗いてみるけど、私じゃ全く分からない。同じ年なのになんでこんな難しいの読んでるのよ馬鹿、これじゃ会話出来ないじゃない。イライラする。

「…馬鹿トキヤ」
「貴方に馬鹿と言われるのは心外…何で泣いているんですか」
「うるさい、泣いてないもん」
「そう言うなら目から流れるそれを止めてからにしなさい、言葉と行動が伴っていません」

ああもう馬鹿、やっぱりトキヤは馬鹿だ。そういうことはこの場合言わないもんでしょ。悔しくて悔しくてトキヤに見られまいと目元を擦れば、「そんなことをしたら目が腫れてしまいます」と手を掴まれた、あ、こっち向いてくれた。

「うっ…トキヤぁ…」
「…はあ、貴方は子供ですか」

呆れながらも本を置いて私の頭を撫でてくれる。駄目だ、なんか嬉しくて涙止まんない。思わずトキヤの胸に飛び込めば、何も言わずに抱き締めて、私を宥めるために背中を撫でる。最初からそのくらい優しくしてくれたらこんなことにはならなかったのに。

「トキヤが悪いんだからね、トキヤがオフだから過ごそうって言ったのに私の相手しないから」
「私は一緒に居るだけで幸せなんです」
「私はそれじゃ足りないの!トキヤは売れっ子だから忙しいしファン多いし、ただでさえ誰かにとられたらどうしようって不安なのに」
「私が貴方以外になびく訳がないでしょう?」
「分かってる…けど…」
「…はあ」

また溜め息。絶対めんどくさい女だって思われた。分かってる、アイドルの彼女ならこのくらい耐えなきゃいけないって…。でもやっぱり寂しいんだ。

「…久しぶりに会えて、嬉しくないわけがない」
「え?」
「私だってずっと会いたかった、久しぶりに会って抱き締めてキスして今まで会えなかった分たくさん触れたい」
「…じゃあ、そうすればいいのに」
「大事だからこそ、です」
「大事なら態度で示して」
「…そこまで言うなら仕方ない」

私の方に向き直ると、頬に手を添え軽く口付ける。次は額、瞳、頬、そしてもう一度唇。今度は長く深く、息苦しさとトキヤがもつ雰囲気とで頭がくらくらする。自然とトロンとした目をする私を見て、トキヤが困ったような顔をする。「そんな顔をされると止まらなくなります」なんて言いつつ私を押し倒して首筋にキス。止める気なんかさらさらないくせに。でも、やっと構ってくれた嬉しさともう離すもんかと意固地になる想いで、私はトキヤの背に強く強く腕を回した。




好きで好きで好きで、アイシテル!