ガラリと音を立てて扉を開ければ、パンを思いっきり頬張っている担任の姿。
思わず噴出しそうになっていると「お前失礼だぞ!」なんて怒るもんだから、「ごめんなさい」なんて軽く言って横に椅子を置いて座る。
「どうしたんだよ、放課後に」
「直ちゃんこそなんでわざわざ教室なの?」
「俺は此処が落ち着くんだ」
「職員室に行ったら怒られるようなことしたとか?」
「うっ…俺がそ、そんなことするわけ」
「したんだ」
「うるせえ!」
本当に、この人は年上なんだろうかなんてよく思う。
でも、生徒達と楽しくサッカーしてて子供っぽいなあと思うときもあれば、時折見せる大人な表情にドキリとすることもある。
どの表情を見ても、どきりとする。
ああ、やっちゃったなんて思ったり。
「あ、そういえば直ちゃん、弓道部にたまには顔出してあげてね」
「ん?何かあるのか?」
「月子が一人で可哀想だから」
「夜久が?あいつなら大丈夫だろ…金久保たちも居るし」
「野獣いっぱいの中に月子一人を置いておきたくないの」
「野獣って…じゃあお前が一緒に」
「私暇じゃないもん」
「よく言うよ」なんて軽く頭をこつかれる。
あ、子供扱い…でも最近なんだかこれも心地いい。
ああ、私心底…。
「で、それだけか?」
「あ、そうそう本題…直ちゃんに相談!」
「お、相談か!いいぞ、俺の力になれることならどんどん言ってくれ!」
すぐに明るくなる表情。
本当に生徒に頼られるのが好きらしい…。
今から相談することに、直ちゃんどう反応するんだろう。
期待半分、不安半分、かな。
「じゃあ先生」
「なんだ改まって」
「いいじゃない…愛って何?」
「は?」
「だから愛って何?恋って何?直ちゃんしたことあるの?」
これぞ質問攻め。
私の質問に、直ちゃんがうーんと唸る。
先程とは違い、少しだけ暗い表情。
うん、知ってた、直ちゃんこういう話あまり好きじゃないもんね。
「お前も思春期だもんな…そういうの気になるよな」
「思春期じゃなくても気になるものだと思うけど」
「そうか?俺は気になったこと無いぞ?」
「それもそれでどうかと思うけど…」
うるせえ!なんて明るく言うけど、心の底から笑えてないのが分かる。
別にそんな無理しなくてもいいのに…。
この人は私達の前で強くあろうって必死なんだから。
「悪いな、それは俺じゃ相談に乗れない…琥太郎先生や水嶋なら…」
「私は直ちゃんだから相談したんだよ、もう鈍いなあ」
「ああ、ご、ごめん」
「…いいよ、何となく予想出来てたし…じゃあ直ちゃん」
「おう、何だ?」
ニッと笑う直ちゃん。
この表情を見て、何だか今から言う言葉を言っちゃいけない気がしてきた。
でも、もうこの際言っちゃう。
「これからさ、そういうこと生徒から相談されるかもしれないんだ」
「ん?まあ、そう…だな?」
「だからさ、直ちゃんも知っておいた方がいいと思うんだ」
「どういうことだ?」
きょとんとする直ちゃん。
ああ意地悪してみたい。
あ、でもこれからすることが意地悪になるのかな?
「ねえ直ちゃん、私と恋愛しませんか?」
「・・・」
え、そこで黙っちゃうの?
そう逆に私がキョトンとしていると、軽めに額にデコピンをされた。
少し痛くて抑えていると、直ちゃんの不機嫌そうな顔。
「ばーか、大人をからかうんじゃない」
「からかってるって…失礼だなあ」
「十年経ったら出直して来い…ほら、もう帰るんだぞ、俺は職員室に戻るからな」
「あ、直ちゃん!」
ガラリと音を立てて教室の扉が閉められる。
ぽつんと一人残された私は、先程まで直ちゃんが座っていた席を見てぽつりともらす。
「直ちゃんのばーか…」
先生、愛とはなんですか?
title by Aコース