分かってた、そんなこと容易に想像なんてついたわ。
「今でも好きだ」
まさかこんな形で聞くなんて思ってなかったけど。
あれだけ酷いことされて、まだそんなことが言えるだなんて、どれだけお人よしなのよあんた。
これじゃあ本当に私の出る幕ないじゃない。
「ああ、なんか萎えちゃった」
手に持っていたサバイバルナイフをしまって、一息。
隙有らばきめてやろうなんて考えてたんだけど、あんなこと聞いた後じゃそんな気分にならない。
寧ろ私を終わらせたい。
「(馬鹿ね私、たかが失恋でこんな気分になるなんて)」
案外脆かった自分の精神。
そりゃそうだ、なんだかんだ言って人識のことが大好きで大好きで、殺したいくらい愛してた。
だから私の手で終わらせようとした。
誰かのものになるくらいならって。
だけどなんだろう、実際に本人の口から自分は私のものにはならない(というようなニュアンス)のことを聞くと、今まで抱いていた歪んだ感情が消滅した。
それと同時に虚しさが自分を襲って、いっそ死にたいくらい虚しくて自分が惨めで堪らない。
「やあ、マインドレンデル」
わざとらしくそんなことを言ってみる。
案の定、人識はうっとうしそうな顔をする。
此方を向く力も残っていないみたいで、私に背を向けたまま。
「何だあいつデマかよ、てめえで最後じゃねえじゃねえか」
「いやいや、その件に関しては大丈夫だよ、零崎人識くん」
「…ああ?」
やっと此方を向いた人識に、「ちゃお」なんて言って手を振ってみる。
「…なんだ、梨音かよ」
普通に返された。
「なんだよ俺は今忙しいんだよ」
「そうは見えないけどね」
「この姿を見てまだ言うか」
「…ね、人識、お願いがある」
「はあ?だから俺は今忙しいって」
「私を殺して」
「…は?」
きょとんとする人識に微笑みかける。
そして、先程持っていたサバイバルナイフの柄を人識に向け、私の方に刃先を向ける。
「だから、私を殺して」
「意味が分かるように説明しろよ」
「私はあんたに殺して欲しいだけなの、ただそれだけ」
「かはは、傑作だな」
「戯言、じゃないよ」
ニヤニヤ笑っている人識に、此方もにこにこと微笑む。
まあ、人識がマジな顔をしたことなんて、私は見たことない。
人識は私の手からサバイバルナイフを引っ手繰ると、その刃をぴたりと私の首筋に当てた。
その光景に、私はニヤリと笑う。
「一思いにやってね、痛みを感じないうちに」
「よく意味がわかんねえが、頼まれて断れねえんだよな、俺」
「いいことだわ…人識、私はあんたが大好きだった、殺してやりたいくらい」
「俺はそうでもなかったよ、まあ、たまに殺して解して並べて揃えて晒してやりたかったけどな」
「知ってる…出夢に宜しくね」
「ああ?なんであいつが」
「告白なんて本人以外の前でやっちゃ駄目でしょ」
「・・・」
あら、黙っちゃった。
まあ、今から死のうとしている私には関係ないことなのだけど。
喉もとのひんやりとした感触が、今まで感じたことが無いくらい心地いい。
ああ、私相当歪んでるわ。
「さあ、やってよ…いい加減この惨めな気分から開放して頂戴」
「…へいへい」
瞼を伏せる、それと同時に、首筋にあった感触が消える。
これで解放される、そう思った矢先、ぱさりを背後で音がする。
そして、私の肩に何かが落ちていく感覚。
意味が分からずに目を開ければ、カランと乾いた音を立ててサバイバルナイフが床に転がった。
肩に何かが乗っていたので触れてみれば、それは今の今まで私の身体の一部だった筈の髪。
セミロングだった髪が、人識によって綺麗におかっぱへと変えられていた。
どういうつもりだと問おうとすれば、私の横を通り過ぎながら、伸びをしつつ言った。
「はい終了、これでお前は死んだわけだ」
「…状況を説明してくれる?」
「俺は今梨音を殺した、そして俺が今この手に持っている髪は梨音の遺品になるって訳だな」
そう言って、手に私の髪を一房持ち、ヒラヒラと振る。
「つーわけでこれ土産に馬鹿兄貴でもたかってくるか、じゃあな、知らない誰かさん?」
一度だけ此方を見てにやりと笑った後、ボロボロの身体を無理矢理動かしながら去っていく。
そんな背中を見つめながら、何故だか吹き出してしまう。
いや、理由なんて分かってるのか。
「何処までお人よしなのよ、この殺人鬼」
今日も私は死んでいる
(あんたが残してくれた命を使って)
title by Aコース
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