「…こんにちは」

「…ああ」



私の目線の先に居る人物は、無表情のまま此方を見ていた。







第25話:思い出と想いと





昇の言葉により、少しの間続いた沈黙。

それを破ったのは、ジャッカルだった。



「…行くぞ、ブン太」

「?!な、なんだよぃ」



驚いているブン太の腕を、無理矢理引くジャッカル。



「ジャ、ジャッカル?!」

「お前、いいのか…?湊が跡部と結婚なんかになったりしても」



ジャッカルの言葉に、ブン太が俯く。



「俺は嫌ッスよ」



赤也が言う。



「行きましょうよ、丸井先輩」

「…何で俺が」

「丸井さん」



昇が言う。



「…お願いします、行ってやって下さい」



声が震えていた。

鳴きそうな顔で言う昇の頭を、ポンポンと精市が撫でる。



「今日の練習は此処で切り上げて…湊のところに行くよ、いいね?」



何も言わず、皆は頷いた。



「才崎、案内して貰えるかな?」

「…はい、俺に着いて来て下さい」



そう昇が言うと、皆は走り出した。



「ブン太」



走りながら、ブン太の横に雅治が並んで言う。



「何だよ、仁王」

「お前さんが何か勘違いしとるようじゃから言うとく」

「…何を?」



ブン太の問いに、雅治がニッと笑う。



「俺は湊に特別な感情なんて持っとらんよ?」

「…は?」

「俺の湊への好きは”love”じゃなく”like”じゃ、覚えときんしゃい」

「…なんで今言うんだよ」

「今だから言うんじゃ」



頑張りんしゃいと呟く雅治。

それを、ブン太は戸惑いながらも頷いた。










部屋には私と、婚約相手になろうである人物だけだった。

ソファーに座って、背伸びをする。



「うーん…まさかこうなるとは思ってなかったな」

「それは俺様だって同じだ」



フンッと怒ったように言う景吾。

それを見つめつつ、景吾に尋ねてみる。



「ねぇ景吾…私と婚約する気なんてあるの?」



私の問いに、キョトンとする景吾。

…これはまた珍しいかも。



「アーン?お前みたいな奴なんかとする気なんざさらさらねーよ」

「…だよね、私も一緒」

「第一、お前に恋愛感情なんて持てない」

「…うん、私も今は景吾はそういう風にしか見れない」



今はという言葉に反応したのか、景吾が此方を見つめる。

そんな景吾に、ニッコリと微笑かける。



「ねえ、景吾覚えてる?小さい頃の約束…」

「ああ、あれか…」



そう、それは私達がまだ幼かった時―…









「けいご!」

「ああ、おまえか」

「うん!あそぼっ!」



そう言って、私達はよく遊んでいた。



「ねえ、けいご」

「ん?」

「おおきくなったら、けいごのおよめさんにして?」

「…まあかんがえといてやるよ」

「ほんと?!やくそくだよ!」

「ああ」








「ねえ景吾…私の初恋ね、景吾だったんだよ」

「・・・・」



ハハッと笑う私に対して、無表情の景吾。

なんか、呆れちゃうね。

こんな状況でこんな話するのも。



「小さい頃からずっと一緒に居てさ…景吾が始めるからって、私もテニス始めて…」

「…そういえば、そうだったな」

「中学になってさ、ミクスド組んで…」

「そして、あの技が出来た」



あの技とは、そう…。

この間、青学で見せた”Moment”。

あれは、景吾と二人で特訓して編み出した技。

だから、それだけは昇には教えなかった。

この技だけは…思い出がいっぱいつまってるから。



「湊」

「ん?」



景吾が私の名前を呼ぶ。

そして、ゆっくり此方を向く。



「いいのか?」

「…何が?」



昇と同じ質問をする景吾。

そんな景吾に、首を傾げながら微笑みかける。



「お前、本当は…」



まっすぐに景吾を見つめていると、そこで言うのをやめた。

それから、景吾は何も言わなかった。





だって、だってさ。

私自身、自分がどう思ってるかなんて、分からないんだもの。

でもね…

なんか凄く寂しい感じがしたのは、しっかりと分かったんだ。




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