コートの中に、四人が入る。

睨んでいる立海の二人に対して、余裕の笑みの昇とちょっと困ったように笑う長太郎。







第16話:クイックプレー






「とりあえず、怪我だけはしないでね」

「わかってら〜」

「了解ッス」



そう言って、コートの中で微笑んできたブン太と赤也。

対する昇はというと…。



「姉ちゃん!俺のプレー見ててね!!」



とまぁこんな感じ…。

なんだか気が抜けるわ。



「それでは、これよりダブルスの練習試合を始める」



ジャッカルの声で、お互いに握手を交わす。

サーブ権はブン太達からだ。



「行きますよ、丸井先輩!」

「OK、いつでもいいぜぃ」



パコンッを音が鳴り、ボールが飛んでいく。



「ハッ」



長太郎が打ち返す。

そのまま少しラリーが続く。

そして、赤也のスマッシュが決まる。



「よっしゃ!」

「ナイス赤也!」

「ドンマイ長太郎」

「うん、次頑張るよ」



また、赤也のサーブから始まる。

その光景を、見ながら、精市が言う。




「湊、湊は自分のプレーを才崎に教え込んだんだよね?」

「あ、うん…そうだけど…」



それを聞き、そのまま黙る精市。

私は首を傾げた後、視線をコートに戻した。

赤也のボールを昇が打ち返した。

そのボールが甘く、それをすかさずブン太が打ち返す。



「妙技、”鉄柱当て”」



コンッと音がしたかと思うと、昇たちのコートに、ボールが落ちていた。



「ゲーム丸井・切原。1−0」



1ゲーム目は、ブン太たちが先にとった。



「何だ?大口叩いてた割にはあっけねぇじゃん」

「自分の実力、過信しすぎじゃねぇの?」



昇たちを挑発する赤也とブン太。

それを、何も言わずにただ見ている昇。

長太郎が、昇に話しかける。



「昇…」

「ん?あぁ…






案外そうでもないかもな」



そう呟くように言った声は、ブン太達には聞こえていなかった。

サーブ権は昇たち。

ボールを何度かバウンドさせた後、昇がサーブを打った。

またラリーが少し続き、ネット際についていたブン太にチャンスボールが来る。





「ビンゴ!妙技”鉄柱あ「妙技”鉄柱当て”でしょ?」



ブン太が鉄柱に当てたボールを、昇が打ち返す。



「フィ、15−0」



その場に居た立海メンバーは一部を除いて驚いていた。



「俺の妙技が…?」

「その妙技、まぁ頑張ったら拾えないことはないんだよね」



フフと口の端を上げて笑う昇。

それを見て、悔しそうにするブン太。



「ドンマイッス丸井先輩!次こそ決めてくださいよ」

「あ、あぁ…」



赤也の励ましで、なんとか切り替えるブン太。








その後も、ブン太や赤也のボールはなかなか決まらず、長太郎のサーブ等ですでに2−4。

驚いているブン太と赤也を見て、昇が溜め息をつく。



「王者王者言ってるけど、それ程でもないじゃん」



キッと昇を睨む二人。

それに構わず、口を止めない昇。



「俺さ、長太郎と一緒で宍戸先輩に憧れてんだ。だから同じカウンターパンチャーになったし、それに、姉ちゃんもカウンターパンチャーだったんだよね…今の俺のプレーは、現役時代の姉ちゃんのプレーを元にしてあるんだ」



昇が話すのを、黙って見つめる一同。



「姉ちゃんはさ、俺の憧れ。だから…」




先ほどまでニヤリと笑っていた昇の表情が、急に真剣なものになる。









「この勝負、俺たちが勝ったら姉ちゃんは氷帝に連れて帰る」




「え?!」

「氷帝は部長や監督のお陰でいろいろ揃ってるしね、それに氷帝に姉ちゃんを連れて行けば、俺だって安心だし」



口を出そうとする私に、精市が静止をかける。



「精市…?」

「ちょっと黙っていよう?」



此方に視線を向けずにいう言葉に、戸惑いながらも頷いた。



「…だとよ?赤也、どうするよ」



ブン太が口を開く。



「此処まで言われるとスッゲー腹が立つッスね」



それに、赤也も相槌を打つ。






「才崎」



ブン太に名前を呼ばれ、昇が反応する。

そして、そんな昇に、ブン太がラケットを向ける。



「今のうちに言いたいこと言っとけよ?後で泣いても知らねぇぜぃ」

「一応俺らも王者なんでね、此処で負けるわかにはいかないっすよ、ね、真田副部長?」



赤也の声で、試合を見ていた弦一郎が頷く。



「うむ、負けることは許されない」

「じゃあ、こっからいくぜぃ」

「へー…じゃあ俺らも…勝つぜ、長太郎」

「あぁ、ここからが勝負だね、昇」



コートの中に居る四人の表情が、また変わった。

今度は、なんだか皆楽しそうだった。



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