「よいっしょ。ふぅー…これで全部!」
ボトルを運び終わって、一息つく。
やっぱり流石に体は重いけど、自分で言い出した以上辛い顔なんて出来ない。
あの精市が黒いオーラも飛ばさずに了解してくれたんだし…。
皆に迷惑かけないようにしよう。
「さて、後タオルタオル…」
タオルを取りに行こうとして、方向転換した瞬間、目の前が歪んだ。
あ、立ち眩みって考えているうちに、足がもつれてこけそうになる。
目の前に地面が広がる私の体は、地面に倒れることなく、誰かに支えられていた。
「たくっ、見てらんねぇ」
顔を上げると、赤い髪をした彼。
「ブン太!!練習は?」
「ジャッカルには一人でやって貰ってる。タオル取りに行くんだろぃ?俺も手伝う」
「いいって、練習してきなよ」
「いや、手伝う」
なんかデジャブ(あ、違うか)
断ってるのになかなか聞いてくれなかったので、仕方なく手伝って貰う事にした。
部室について、人数分のタオルを持つ。
それを、ブン太に取り上げられた。
「…それ、私の仕事なんですけど」
「ばーか、病人に仕事させられっか」
「精市たちは許可くれたもん」
「あれは仕方なくだろ、大体風邪引くなんて…体調管理ちゃんとしてんのか?」
グサッとブン太の言葉が刺さる。
確かに、ブン太の言うとおりだもんね…。
マネージャーが風邪引くなんて…選手の皆に迷惑かけちゃうじゃない…。
下を向いていると、ブン太から「あー」って声が聞こえた。
顔を見ると、困った顔をしている。
「…悪ぃ、その…そんなつもりじゃなかった…」
「ブン太…?」
名前を呼ぶ私の方を、ブン太が向く。
その顔は真剣で、私は、視線が逸らせなかった。
「俺さ…お前が風邪引いてんの、気づいてやれなくて…ごめん」
「なっ、なんで謝るの?皆にバレない様にしてたんだから、分からなくて当然でしょ?」
「いや、それでも気づけた筈だ、仁王も幸村も気づいたんだし」
悔しそうな顔をするブン太を見て、自然と手が動いた。
私の手は、ブン太の頬に触れ、驚いたブン太が顔を上げた。
ごめんね、ブン太。
「有難う、ブン太。そう思ってくれただけで嬉しいよ」
「けどっ!!…俺はそんなんじゃ気がすまねぇ…」
「ブン太…」
「教室にも、コートにもお前が居なくて…何かすっげぇ…変な感じした」
辛そうな顔をさせてしまった事に、凄く後悔した。
私が風邪なんか引かなかったら、こんな顔させなくてすんだのに…。
ブン太の手が、私の手を包む。
「…やっぱ熱いな、お前の手」
「そ…う?自分ではそんな感じしないんだけど…」
アハハ、と乾いた笑いをする私に、ブン太は悲しそうだけど、笑顔を作ってくれた。
そして、困ったように言う。
「早く風邪…治せよな」
「当然」
「それ俺の台詞だろぃ」
「ごめんごめん、でも、ちゃんと復活するから待っててよ」
「おう、
そん時は迎えに行ってやるよ」
ニッと笑ってくるブン太。
あぁ、やっと笑ってくれたね。
そんなブン太の笑顔が見たかったんだ。
熱ですでに熱い私の体が、さらに熱を増した気がした。
早く風邪治して、
元気な姿見せなくちゃね。
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