周ちゃんとブン太との話は終了させて、ルドルフが練習しているコートに着いた。

凄いよね、観月君が練習メニュー考えてるらしいんだけど、なんていうか…蓮二を思い出させたよ。






「湊ちゃん?」



やっぱりこの子も声だけで分かった。

練習中だったのにも関わらず、先輩にペコッと頭を下げて、此方に来てくれた。

そんな彼に、私はニコッと笑いかける。



「練習中だったんでしょ?別に良かったのに」

「いや…それルドルフのだろ?重いだろうなって思って…」

「やっぱり裕ちゃんは優しいね」

「その…呼び方やっぱ変えようぜ?」

「なんで?周ちゃんだって未だに周ちゃんって呼ばせてくれるよ?」

「兄貴は兄貴、俺は俺!!」



いつもだったら「兄貴と俺を比べるな!」って怒って言うんだろうと思ってたんだけど…。

変わったね、裕ちゃん。

青学からルドルフに転校するって聞いた時はビックリしたけど…ま、良かったのかな?

フフっと笑うと、裕ちゃんが少しだけ困った顔をした。



「きゅ、急に何笑ってんだよ…」

「あ、いや。何でもないよ」

「…まあいい、湊ちゃんまだ仕事あるんだろ?これは俺に預けといていいから」

「ほぅ…裕太君が人のことを”ちゃん付け”で呼ぶとは…珍しいこともありますね」



ビクッと裕ちゃんの体が震えた。

裕ちゃんの後ろには、腕を組んで顎に手を置いて笑っている観月君が居た。



「あ、観月君。頼まれてたもの持って来たよ」

「ああ、有難うございます、才崎さん」

「いえいえ、これもマネージャーの仕事ですから」

「んふっ、是非僕と一緒に聖ルドルフのマネージャーをやって頂きたいくらいの働きっぷりですよ」

「…さりげなしに口説かないで下さい」



もの凄く嫌そうな顔をする裕ちゃん。

でも凄く観月君のこと慕ってるんだよね…素直になっちゃえばいいのに。



「私はもう行くけど、練習頑張ってね裕ちゃん」

「お、おう…」

「裕ちゃんですか、愛らしい名前の呼び方ですね」

「昔からの名残で…裕ちゃんが私を”湊ちゃん”って呼ぶのもそれでだよ」

「んふっ、それでは僕も裕太君のことを今度から裕ちゃんと呼ばせて頂きましょう」

「…それだけは勘弁して下さい」

「あ、駄目ですよ?観月君」



私の発言に、2人がキョトンとする。

そんな2人に、笑顔を作って言う。









「裕ちゃんって呼べるのは、今は私の特権だから」



少しポカンとした後、観月君がフフっと笑い出した。

裕ちゃんは何だか照れ臭そうにしている。

…裕ちゃんってこうストレートに言われるのって苦手なのかな?



「それじゃ、私はまだ仕事残ってるから」

「ああ、有難うございました」

「いいえ!じゃあ練習頑張ってね」



去って行く私を見ながら、観月君は一言言った。



「…これは相当頑張らないといけませんね、裕太君」

「どういう意味ですか?」

「自分が一番分かっているでしょうに」

「・・・」



二人がそんな会話をしていることは、私は知るはずはない。





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