ニカッと笑ったブン太を見た後、私はコートに入った。
ブン太が、ん?と少し驚いた顔をした。
「お前…右利きじゃなかったっけ?」
「え、そうだったっけ?まぁ両手使えるってことだよ」
字書く時は右手だからね。
何度かボールをバウンドさせた後、私はラケットを振り上げた。
パコン、といい音がした。
「へぇー、いい球打つじゃん」
「まあね」
ブン太とテニスをやってると、もの凄く楽しかった。
あぁ、そうだね、そうだよ。
テニスって凄く楽しいんだ。
「よっと」
ちょっと体勢を崩しながら、ブン太の打ったボールをとった。
そのボールは少しだけ高く上がり、ブン太はそのボールを追った。
そのブン太が走っている方向には、ネットのポールがあった。
「ブン太!前!」
「え?おあっ!」
「ブン太!!」
嫌な予感は当たって、ブン太は思いっきり体をぶつけた。
ラケットもボールも放って、急いでブン太に駆け寄った。
「ブン太?大丈夫?!」
「いてて…平気平気、ちょっとミスった」
ハハ、と軽く笑うブン太に、なんだか腹が立った。
そんなつもりはなかったのに、気づいたら怒鳴っていた。
「平気じゃない!!ちょっと見せて!!」
「わ、湊?!」
戸惑うブン太の腕を引き、どこも異常がないか確認する。
…良かった、どこも怪我してないみたいだ。
そう思うと、不意に涙が零れた。
「湊?!どうしたんだよ?!」
「よ、良かった…怪我してなくて…」
嗚咽までしだして、ボロボロ泣く私を見て、ブン太はオロオロしていた。
肩に手が置かれたと思ったら、ブン太の腕の中に抱き寄せられた。
「ごめんな…心配かけて」
「…無茶しないでね?」
「あぁ、もうしねぇ…多分」
多分という言葉が聞こえた瞬間、私はバッとブン太から離れた。
「多分って…説得力ない!!」
「しょうがないだろぃ?!試合中は何が起こるか分かんねぇんだから!」
「それでも絶対に無理しないで!!お願いだから…」
まぁ泣き出す私に、ブン太は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
テニスで誰か怪我をするのは…もうたくさんだ。
「分かった…だから、いい加減泣きやめよ」
「…私こそゴメン…なんかこんなに泣いて…」
ゴシゴシ目を擦る私の頭を、ポンポンとブン太は撫でた。
なんだか心地よくて笑ったら、ブン太もそれにつられたのか、ニッコリと笑った。
その光景を、精市達は見ていた。
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