「染岡さんにお願いがあります…明日一日私のお兄さんになって頂けませんか」
「…は?」
そんな話をしたのは昨日の話で、今俺は若葉と一緒に過ごしている。
何故その必要があると聞けば、「一度兄弟が居るという体験をしてみたかったので」と一言。
何故俺なんだと問えば、「私は染岡さんがいいんです」と一言。
よりにもよってどうして俺なんだ、もっと適任の奴が居るだろう。
そんなことを考えていると、顔が険しくなっていたのか、若葉が心配そうな視線を送ってくる。
「あの…大丈夫ですか」
「あ、ああ」
「…すいません、急にこんなことを頼んでしまって」
「いいや、気にしなくていい…俺は別に構わねえし」
そう言えば、若葉が嬉しそうに微笑む。
そして俺の手を引き、にこりと笑う。
「それじゃあ行きましょう、“お兄さん“」
一日あの状態で過ごし、もうじき日が暮れる。
俺の隣には若葉が居て、夕日の色でいつも綺麗だがそれ以上に綺麗に見える。
…なんて、らしくないこと考えてんじゃねえよ俺。
「あの…“染岡さん“」
「お、おう」
急にいつもの呼び方で呼ばれ、驚いてしまった。
そんな俺に、困ったように笑う若葉。
「今日は本当に有難うございました…その、楽しかったです」
「ああ、俺もだ」
「もしよかったらまた…お付き合いして頂けますか」
「…暇だったらな」
自分でも格好悪い言い方だとは思うが、若葉は相変わらず微笑んでいる。
雷雷軒につき、あとは別れるだけというところで、若葉が思い出したように振り向く。
「あの、今度は兄妹とか関係なくご一緒していいですか」
「ああ…構わねえけど」
「…良かった」
それに続けて言った若葉の言葉に、俺は頭がショートした。
「何だかもの足りなかったんです…兄妹っていうのが…やっぱり染岡さんとは、一男性、一女性として付き合えたらなって…あ、何だかすいません…それでは、失礼致します」
そう俺に頭を下げて、店の中へ入っていく若葉。
その姿が完全に見えなくなった後、俺は頭を抱えて人目も気にせず座り込んだ。
激しく鼓動
(やられっぱなしは性に合わねえから、今度は覚悟しとけよ)