ふっふっと息を吐きながら道を急ぐ。
今日は練習は午前中だけで、午後から何をしようと考えていたら、響木監督から午後に店に来るように連絡があった。
何だろうと軽く走りながら考える。
そういえば若葉は居るんだろうか。
店の前に着くと、整わない呼吸を深呼吸で静め、扉に手をかける。
「響木監督ー!」
そう名前を呼びながら店に入ると、掃除をしていたのか、若葉とばっちり目が合う。
若葉は二、三度瞬きをした後、いつものあの冷静な顔に戻る。
「こんにちは、練習お疲れ様です、円堂さん」
「おう!…なあ、響木監督は…」
「正剛さん…ですか?正剛さんなら備流田さんたちと飲み会があるから今日は1日居ないって」
「え?」
俺、呼ばれた筈なのに…。
状況が分かっていない俺に、何か思い出したのか、若葉がポケットに手を入れる。
そして中から紙を取り出し、それを俺に渡す。
「正剛さんから…円堂さんが来たら渡してくれって」
若葉から紙を受け取り開いてみてみれば、走り書きされた文字。
内容を理解すると、俺の方を見つめている若葉に笑いかける。
「なあ、今から暇か?」
場所は鉄塔広場。
手にサッカーボールを持ち、ベンチに座りタイヤと向き合う俺を見つめる若葉。
響木監督の手紙には、今日は遅くなるから若葉と一緒に居て欲しいとのこと。
夕飯のこととかも監督が事前に母ちゃんに話をつけていたらしく、何で朝教えてくれなかったんだとちょっと恨めしく思う。
まあ、若葉も同じ状況なのだけど。
俺が来るまでは、明日まで一人で過ごすつもりだったらしい。
「ふう…なあ若葉、暇じゃないか?」
「大丈夫です、円堂さんが特訓してるの見るの、楽しいですから」
手の中のサッカーボールを少しだけ遊びながら言う若葉。
ふと、いいことを思いつく。
「なあ、若葉サッカー出来るか?」
「フットサルなら少々かじりましたけど…」
「だったら一緒にやろうぜ!」
「特訓をですか?」
「いや、サッカー」
まだまだきょとんとしている若葉からボールを奪い、手を引き立たせる。
そして、二メートルぐらいの距離をとって、「行くぞ」と声をかけ、ボールをパスする。
コロコロと転がったボールを若葉は綺麗に止めると、俺に綺麗な弧を描いてパスを返す。
「へえ…上手いな!」
「あ、有難うございます…」
へへっと笑いかければ、若葉が少しだけ恥ずかしそうにする。
「よーし、ちょっと力込めるな!」
そう言って少し力を込めてパスすると、これまた綺麗に受け止める若葉。
それが気持ちよくて、どんどん速度を上げていく。
最終的には部活でやってるぐらいの速度になったが、若葉はしっかりついて来た。
「すげえな若葉!監督に特訓つけて貰ったりしてるのか?」
「あ、いえ…正剛さん前はサッカーはあまり…」
「あ、そっか」
「でも、何でか小さい頃からサッカーが好きで…たまに遊んだりしてました」
サッカーが好きって気持ちはみんなに伝わっていくって信じてた。
響木監督がサッカーをやっていなくても、監督がサッカーを好きだった気持ちが若葉に伝わってたんだなと思うと、何だか嬉しくなった。
なあじいちゃん、やっぱサッカーはすげえよ。
「よっし!じゃあ今度はシュートだ!」
「え?」
そんな感じで二人で暗くなるまでサッカーをした。
ふう、と息を吐く俺の隣で、嬉しそうにサッカーボールを握る若葉。
そんな若葉が何だかすごく嬉しくて、俺は自然と笑っていた。
「あ、今日母ちゃんが肉じゃがって言ってたな…」
「肉じゃが…ですか?」
「ああ!母ちゃんの肉じゃがはすっげえ旨いんだぜ!」
「それは楽しみです…円堂さん」
「ん?」
「今日は…有難うございました、すごく、楽しかったです」
「…またやろうな!」
「…はい」
ビタミン剤
(なんか落ち着く)