ああ、本当に気になる。ボールを見ていなきゃいけないのについついあの子の手元が気になる。あの子、若葉ちゃんは木野さんたちの隣にちょこんと座り、俺たちの練習を見学している。その膝上には淡い黄色の紙袋が置いてあって、チームメンバー全員の気になるところである。あの袋の中身…時期を考えて間違いなくあれだ。ということは今日はあれを渡しに来たのか。誰にだろう…気になる、気になるだけじゃない、欲しかったりする。やっぱり円堂さん?いや、豪炎寺さんかな…鬼道さんかも。吹雪さんとか…ヒロトさん?飛鷹さんともよく話しているし…虎丸とだって。久遠監督だってこともあり得るし、もしかしたらマネージャーに友チョコって線も…。ああもう、本当に誰宛なんだろう!気になり過ぎて頭可笑しくなりそうだ!こんなに気になってたなんて、いや、気づいてたけどさ、自分の気持ちなんて!こういう風に思うのは本当に不謹慎だけど、今日だけは早く練習よ終わってくれ。あの紙袋が眩し過ぎて集中できない。誰の手に渡るのか見届けないと、この気持ちが治まらない。いや、場合によってはもっと…いやいや、大丈夫!

「よし、今日の練習は終了する!」

監督の声が響き、全員が集合する。早く早くと心が急かす。時間としてはいつも通りなのに、今日ばかりは監督の話がすごく長く感じる。解散、という二文字が早く聞きたくてそわそわしていると、隣にいた風丸さんから「落ち着け」と注意される。多分、風丸さんは分かっているのだろう。口元が少しだけ緩んでいて、苦笑気味だった。やっと聞けた二文字に勢いよく頭をさげて、視線を彼女に送る。あ、円堂さんと話してる。そっか…やっぱり円堂さんか…そうだよな、円堂さんかっこいいもんな。…落ち込むなよ俺、円堂さんなら仕方ないだろ。好きな子の好きな人が俺の憧れの人ならいいじゃないか。円堂さん悪い人じゃないし。ああズキズキする…心臓よ止んでくれ。男なら潔く諦めようじゃないか!切り替えよう、うん、この後特訓しよう。

「立向居くん」
「え?」

先ほどまで円堂さんと話していた彼女が俺の目の前にいる。しかも、手にはまだあの紙袋が。…円堂さんじゃ、ない?

「立向居くんは、甘いものは苦手じゃないですか?」
「苦手じゃない…よ」

ドキドキ心臓がうるさい、頬があつい。これはもしかしてと頭の中がカッとなる。欲しくて欲しくてたまらなかった袋が、俺の前に差し出される。

「よかった、甘いものが苦手だったらどうしようかと思いまして」
「これを…俺に?」
「はい、受け取っていただけますか?」
「も、もちろん!」

丁寧に袋を受け取ると、満ち足りた気分になった。あの袋が俺の手元にある、夢じゃないよな、これ、現実だよな。夢でも覚めないで欲しい、こんな夢ならずっと見続けたい。

「あの…ありがとう、若葉ちゃん」
「いえ、喜んでいただけて嬉しいです」
「その…ホワイトデー、ちゃんとお礼するね」
「そんな、お気持ちだけで十分です…それに、立向居くんがサッカーを頑張っている姿を見るだけで、私はたくさん幸せをいただいてますから」

綺麗にほほ笑む彼女の顔を見て、さらに鼓動が高鳴る。彼女はどこまで俺の心をときめかせるんだろう、このままじゃ爆発してしまいそうだ。

「じゃあ、私はこれで失礼します」
「う、うん…またね」
「はい、また」

ぺこりとお辞儀をして、響木監督のもとへ駆けていく。俺は紙袋を一撫でして、今度はお礼と共に自分の想いを伝えようと決めた。



ふわふわまたひとつ
(君が心の中に入り込んでくる)