死って何だと思いますか。

なんて質問に、誰がなんと答えるだろう。

世界の終わり、人生の終着点…答えは人によってさまざまだ。

そして俺は、そんな質問を目の前の人物に投げてみた。



「死…ですか?」

「うん、そう、若葉は何だと思う?」

「そうですね…考えたこと無いです」



考える仕草をする彼女を愛らしいと思う反面、好奇心が疼く。

彼女はどんな答えを俺に返してくれるんだろう。

世間一般の意見と同じようなものかな?



「私には…分かりません」



おっと、そうきたか。



「ちょっと難しいかな?」

「すいません…なんか漠然としているものなので…一之瀬さんは何だと思うんですか?」

「俺?」

「はい」



若葉の瞳に俺の姿が映る。

その俺は、ひどく悲しい表情をしていて…若葉もそんな俺を見ているのだろうか。

さりげなくだけど、袖元をぎゅっと握られた。



「俺にとって…でいい?」

「…はい」

「俺にとって死っていうのは…サッカーが出来なくなることだよ」



あの事故で一生サッカーが出来なくなるって知った時、押しつぶされそうな絶望を感じた。

でも、必死にリハビリして…やっと生きてるって実感を得たんだ。

なのに、また絶望が俺を苦しめる。

サッカーが出来なくなる、俺に仲間の大切さや繋がりを教えてくれたサッカーが、俺の手から零れ落ちていく。

怖くて怖くて、夜も眠れなくて。

仲間に心配かけまいと、毅然としてみるけど、本当は不安に押しつぶされそうなんだ。

怖くて逃げ出してしまいそうなんだ。

手が握られる。

視線を寄越せば、先ほどまで俺の袖を握っていた若葉の手が、そこにはあった。



「一之瀬さん、すいません」

「…どうして、若葉が謝るの?」

「…ずっと傍に居た筈なのに…気づけなくて」

「若葉は悪くないよ、俺が気づかれないように振舞ってたんだから当然だろ?」

「でも…気づかなきゃいけないんです…」



そっと目を伏せる若葉。

ああ、こんな顔をさせたかったわけじゃないんだ。

ごめんね若葉、困らせちゃったよね。

とにかく誰かに聞いて欲しかったんだ…。

本当にごめんね。



「一之瀬さん」

「うん?」

「諦めないで…下さい」

「…若葉」

「わずかな希望にもかけてみる、希望がないなら、私が一之瀬さんの希望になります」

「若葉がそんなことを言うなんて、珍しいね」

「それだけ、一之瀬さんに希望を持って欲しいんです」

「…」



握られた手に、さらに力が込められる。

その手は暖かくて、少しだけ泣き出しそうになる。

泣いてもいいんだよって、言ってるみたいだ。



「こんなこと言うのも変なんですが…私の為に、ちゃんと”生きて”下さい」

「…うん」

「一之瀬さんなら大丈夫です、皆さん、一之瀬さんの味方です」

「皆、だけ?」

「…勿論私もです」

「…うん、それは心強い」



握られていた手を、今度は握り返す。

ぎゅっとぎゅっと、力を込める。



「ごめん、若葉…肩、借りていいかな?」

「…はい」

「あと、少しでいいから、目を閉じていてもらってもいい?」

「…はい」



手を握ったまま、若葉の肩に頭を乗せる。

額に若葉の温度を感じて、瞳から涙が触れてくる。

目は瞑っていてもらっているけど、流石に耳を塞いでまでは言いにくいから、必死に嗚咽を噛み殺す。

そんな俺に若葉は何もせず、ただ瞳を閉じて、そこに居てくれた。








(俺の不安を溶かして行った)

アメリカ戦前のいっちー見てカッとなってやりました。
後悔は…して、ません←
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