練習が終わった後、俺は響木さんに特訓してもらうべくいつもの場所へ。
まだ監督は来ておらず、とりあえず自主練でも始めようとボールを地面に置く。
ふと、近づいてくる人影。
視線を寄越せば、見覚えのある人物。
俺と目が会えば、一度お辞儀をされる。
俺もつられて頭を下げると、此方に歩いて来る。
「こんにちは、飛鷹さん」
「おお、どうした?」
「今日、正剛さんが来れないそうなんです」
「響木さんが?」
最近、響木さんが練習に来れない事が増えてきた。
理由は分からないが、此方は頼んでいる身だ。
無理に来て下さいなんて言えない。
「それで、代わりにはならないんですが、特訓に付き合うようにと」
「お前がか?」
「はい…多少のことならなんとか分かりますので」
そういえばキャプテンたちが「若葉はたまに的確なところをついてくる」なんて言ってたことがある。
今はどんなアドバイスでも欲しい。
そう強く思うので、頼むと一言だけ伝えた。
それから若葉は俺の特訓に付き合ってくれた。
言葉は少ないがたまにくれるアドバイスは分かりやすく、且つ鋭い。
流石響木監督の姪というべきか。
あの人のすぐ傍で、サッカーを見てきたんだろうか。
「いいえ、正剛さんがサッカーに戻ったのは最近ですよ」
「そうなのか?」
「はい…円堂さんが監督を頼むまではあまり関わっていませんでしたし…」
「でも、お前はいろいろ詳しいよな、それは響木さんと一緒に居たからじゃないのか?」
「正剛さんとは一緒に住むまではたまに会う程度でしたから…多分、イナズマイレブンのファンだった父の影響です」
「お前の親父さん?」
ということは、響木さんの兄弟か。
「父は、正剛さんがサッカーをやめてしまったことを…本当に残念に思っていました、それで”もし子供が生まれたらあの人たちのサッカーを見せてやるんだ”って」
「サッカーを?」
「はい、私が人生で初めて見たサッカーは、イナズマイレブンの…正剛さんたちのサッカーです」
「響木さんの…」
どんなものだったんだろう。
俺も、見てみたい。
「幼いながらに感動しました、そして、サッカーが大好きになったんです」
「なるほどな」
「よく父と母と試合を見に行ってたりしたんです、それで詳しいんだと思います」
少しだけ照れ笑い。
サッカーの話をしている時のこいつは、幸せそうだ。
本当に本当に、キャプテンみたいに、太陽みたいに笑う。
「それに私、飛鷹さんのプレーも好きです」
「俺の?」
「はい、まだ始めたばかりで戸惑っているかもしれませんが、飛鷹さんのプレーの一つ一つに魅力を感じるんです、この人は凄い選手になるぞって」
「若葉…」
「だから、諦めずにボールをしっかりと見つめて下さい、ボールはきっとそれに答えてくれます」
「…ああ」
やっぱり似てる、響木さんと。
サッカーに向けるまっすぐな眼差し。
ジャパンのメンバーにも。
こいつは本当に、サッカーが好きなんだ。
ふと、若葉と目が合う。
そして、ふわりと微笑まれれば、とくんと胸が躍った。
俺、まさか…。
「そろそろ終わりましょうか、もう遅いですし」
「あ、ああ…送る」
「あ…有難うございます」
恋煩いテディー
(こいつを雷雷軒に送り届けるまで、ずっと心臓が鳴っていた)