「あっ…」
少し走ってみようと雷門町を走っていたら、ある公園に一つの影。
この辺では見ない制服を着た同じくらいの年の女の子。
俺と知り合いであったので、いそいそと近づいて行く。
「若葉、ちゃん!」
俺が名前を呼ぶと、彼女は此方を向く。
「こんにちは、立向居くん」
「へ、あ、こんにちは」
「熱心ですね、無理はしないで下さいね」
「あ、有難う…」
にこりと微笑む彼女。
でも、いつも感じることがある。
「あの」
「何でしょう?」
「何で、若葉ちゃん、俺に対しても敬語なの?」
どうも初めて会った時から距離がある気がする。
結構出会ってから日が経っているし、自分ではかなり話をして親しくなったつもりでいる。
「その、癖なんです」
「癖?」
「はい…小さい頃からずっとこうなので」
「そ、そっか…」
癖なら仕方ない…のかな。
それでも俺だけ敬語をとって欲しいなんて…我が儘な気がするし…。
「立向居くん…」
「…へ?」
名前を呼ばれ顔を上げると、困ったような表情の彼女。
一瞬驚いたんだけど、すぐにそんな顔をさせたのが僕なんだと分かって、酷く申し訳ない気分になった。
そんな顔させたかった訳じゃないのに…。
「…若葉ちゃん?」
「敬語で話されるの…お嫌いですか…?」
「いや…そういう訳じゃなくて…」
「すいません、もし立向居くんに嫌な思いをさせているのなら私…」
「いや、違うよ…!」
どんどん暗くなっていく若葉ちゃんの顔。
それを見かねて、思い切って本音を言ってみることにした。
落ち着け、俺…。
「えっと…その、敬語で話されると距離を感じるから…」
「嫌、なんですか…?」
「嫌って訳じゃないよ、ただ、俺だけに敬語とってくれたらなあなんて…」
自分の発言がかなり恥ずかしい。
何を言っているんだろう、いや、本音を言うって決めたけど…。
これじゃあ遠回しに好きですって言ってるようなものだろ…。
「そう、ですか…」
「う、うん」
微妙な反応の若葉ちゃん。
そして、考え込むようなポーズをとる。
その姿をおろおろとしながら見ていると、急に顔を上げられたので、びっくりして声がもれてしまう。
そんな俺に驚いたのか、若葉ちゃんから「大丈夫ですか」と苦笑された。
ああ、恥ずかしい…。
「その、立向居くん」
「は、はい」
思わず敬語になった。
「やっぱりこれって癖ですから、すぐに抜けないと思うんです」
「あ、うん」
「でも、善処してみたいと思いますので…待って頂けますか…?」
え、と思わず声が出る。
それはその…そういう意味で、とっても大丈夫…なのかな。
そんなことを考えていると、若葉ちゃんに顔を覗き込まれて、「宜しいですか」と一言。
若葉ちゃんの提案に、頷かないわけがなくて、
「う、うん…!勿論…!」
「あ、本当ですか、良かったです」
そういって、綺麗に笑うものだから、俺もつられて微笑んでしまった。
お願いジェシカ、あなただけ
(まずは、勇気くんと呼ぶところから始めてみましょうか)
(へ?!あ、う、うん…!)