日本代表での練習中。
見慣れない姿を見つける。
隣には響木監督が居たので、容易に誰だか理解出来た。
雷門の奴らが言ってた奴か。
興味が沸いたので、歩いて近寄ってみる。
俺が寄ってきているのに気づいたのか、会釈される。
「こんにちは」
「…こんにちは」
俺を見るこいつの顔は無表情。
話に聞いてた通りだ。
「噂の響木監督の姪っ子?」
「…噂かどうかは分かりませんが…姪の響木若葉です」
「ふーん、若葉ねえ?俺は不動明王…って知ってるか」
ははっと俺が笑うも、こいつは無表情。
…感情は、あるよなこいつ。
「で、今日は何で此処に?」
「正剛さんが練習を見に行かれると仰ったので見学に」
淡々と答える若葉。
こいつ本当に響木監督の親戚か?
まあ別に娘とかじゃねえから…似てねえのも仕方ねえかもしれないけど。
俺がずっと顔を見ていると、何かに気づいたのか一点を見る。
そして、ポケットからハンカチを取り出すと、水道まで走る。
なんなんだと思って見ていると、帰ってきた若葉はしゃがみ、俺の右膝辺りに当てる。
「…いって!」
「あ、すいません…血が出てたので」
「血…?ああ」
さっきボールを取った時に擦り剥いたっけ。
まあ別に気にしてなかったけど。
周りの土を綺麗に拭き取ると、どこから取り出したのか絆創膏を貼り付けた。
上からこいつを眺めてみる。
…へえ、結構可愛いじゃん。
俺は若葉と同じようにしゃがみ込み、若葉の顎に手をかけ此方を向かせる。
「…何ですか」
少し嫌そうな顔。
いいねえ、その表情。
「なあ若葉、俺の女になれよ」
「・・・」
「無言は肯定と取るぜ?」
「…ご冗談を、私を恋人にしたって何も面白くありませんよ」
「面白いかどうかは俺が決めるからいいんだよ」
「それに…不動さんは私何かに興味はありませんよ」
「何でそう思う?」
俺がそう問えば、初めて若葉が笑みを浮かべる。
その姿があまりに綺麗で、思わず黙った。
「そんなに体をボロボロにするまでサッカーやってるんですから、私に構う暇なんて無いですよ」
「は?」
「不動さんにとって私はサッカーと比べれば少しの価値もありませんよ」
「何言ってんだ、お前」
よく話の意図がわからねえ。
すると、若葉は立ち上がり、もう一度微笑んだ。
「体、大切にして下さいね…隠れて特訓するのもいいですけど、倒れちゃったら意味がありませんから」
どこまで気づいてんだこいつ。
失礼しますとお辞儀をした後、若葉は響木監督の方に走っていった。
「…おもしれえ奴」
あいつを落とすのは面白そうだ。
精々俺を楽しませてくれよ。
初恋の定義はスイートビター
(まさかこんなに面白いとは思わなかった)