帰宅途中、夕立にあった。

生憎今日は1日晴れ模様とブラウン管の中でお姉さんが笑顔で言ったことを信じた為、俺の手元に傘は無い。

慌ててどこか雨が凌げるところをと視線を巡らせれば、ふと見覚えがある姿。

頭の上に雨よけの為に鞄を乗せ、目当てに向かって駆けていく。

俺の足がアスファルトとぶつかるごとに鳴る水の音に、あいつは振り向いた。

よっと言って手を軽く挙げれば、一瞬ぽかんとした後、丁寧にお辞儀付きで挨拶された。



「雨酷いなー」

「そうですね…すぐには止みそうにないです」

「若葉も傘無いのか?」

「はい、今日は天気予報で晴れると聞いたので…」

「あ、俺も」



お揃いだなあなんてちょっとおどけてみれば、はあと微妙な反応をされる。

うーん、ちょっと外したかな。

ふと、若葉を見てみると、ポタポタと滴る雫。

濡れた鞄をガサガサと漁り、多分これくらいなら大丈夫だろうと思われるタオルを若葉の頭の上に乗せる。



「…土門さん?」

「風邪引くだろ?そんなに湿ってなかったからとりあえず拭いとけ」

「あの…」

「あ、そのタオル使ってないから大丈夫!俺二枚持ち歩いてるから」

「いや、だからそうじゃなくて…土門さんも風邪を引いてしまうじゃないですか」

「俺は平気、ほら、スポーツしてるから体頑丈だし」



なっと言いながら微笑みかければ、俺とは対照的に不機嫌な若葉。



「それなら尚更でしょう?サッカーに支障が出たらいけませんから土門さんが拭いて下さい」

「いやいや、俺本当に大丈夫だから」

「全く大丈夫じゃないです…制服から雫が垂れてます」

「水も滴るいい男だろ?」

「ふざけないで下さい」



ありゃ、怒らせちゃったか。

ふうとわざとらしく溜息をつき、タオルを差し出す若葉を見る。

…もう本当にこいつは。



「分かった」

「じゃあ…」

「こうすりゃ温まるだろ」



そう言って、若葉の肩を引き寄せる。

俺と若葉の体が接触する瞬間、水分を帯びたあの布の音がした。



「ど、土門さん?!」

「人肌って温かいって言うしな…雨が止むまでこうしてるか」

「人肌よりタオルで体を拭く方が効果があると思いますけど」

「俺はこっちがいいの…若葉は嫌か?」

「・・・」

「嫌なら止める、その代わりタオルの刑な」

「タオルの刑って…嫌じゃないです」

「うん、ならこのままな」



少しずつ赤みを帯びていく若葉の顔を満足げに見ながら、俺は若葉の肩を引き寄せている手に力を込める。



「…なんか近すぎませんか」

「いや、これが普通…あ、アメリカと日本のギャップとか言うなよ」

「・・・」

「図星だな」

「…いいんですか、私にこんなことして」



何を言い出すんだこいつは。



「…秋さん」

「ん?秋?秋は別に気にしないだろ」

「いや…土門さんはいいんですか」

「…何か勘違いしてないか」



出会ってからまあ長いとはお世辞にも言えない時間しか過ごしてないが、そんな風に見られてたんだな…俺。



「…じゃあここで一つ」

「はあ…」

「俺はこういうこと秋にはするが塔子にはしない」

「…それは秋さんのことが」

「残念、秋はもう家族みたいなもんだからお互いに恥ずかしさなんてないんだよ…でも塔子はやっぱり違う、分かるな?」

「はい」

「で、俺はこういうことお前にはする…秋とは理由が違うけどな」



ニッと笑って言えば、若葉の頬がさらに染まる。

何か言おうとした瞬間、雨音は止み、雲が晴れていく。



「お、止んだなー…また降り出さないうちに帰るか」

「あ、あの…土門さん」

「ん?」

「さっきのは…」



どういうことですか、そう言う若葉に微笑みながら、唇の前で人差し指を立てる。











それは内緒ということで
(当てたら教えてやるよ)
(…教える気なんて無いでしょう?)
(さあ、どうだろうな?)

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