そうだね、そろそろハッピーエンドだ。



episode30、君に捧げる僕のpledge





真っ青な青空。

さわさわと揺れる木々。

天気予報のアナウンサーが言っていた通り、今日は晴れ。

心地よい風があたしの髪を揺らし、そっと目を閉じてみる。

ふと、足音がする。

目をゆっくり開ければ、「オッス」なんて軽く挨拶。



「おはようございます、遅刻ですよ、赤也くん?」

「そう堅いこと言うなよな〜、慣れっこだろ?」

「それが問題だと思うんだけど…」



相変わらずのコイツに、思わず溜め息。

赤也の言う通り、慣れてしまっている自分が居ることにちょっと驚き。

あたしも随分やわらかくなったものだ。



「せっかくあたしが勉強教えてあげるっていうのに…いい度胸じゃない」

「いや、だってよ…俺テニス推薦で学校選び放題って感じじゃん…勉強しなくていいんじゃねえかって」

「感じなだけで事実じゃないでしょ…まあ、実際に声がかかってるみたいだから何とも言えないんだけど…」

「へへっ」

「へへっじゃない馬鹿!」



あれからしばらく時が過ぎ、あたしたちは受験生。

まあこいつはテニスで学校に行こうと思っているらしく、勉強なんてほとんどせずにテニスばかりしている。

いい加減部活から引退したらどうなんだろう…事実上引退してるんだけど…。



「あ、そういえば幸村部長…じゃねえ先輩、留学するって本当か?」

「うん、アメリカに行くんだって」



兄さんは高校に進学後、全日本の選手に選ばれて今度アメリカに行くことになった。

その中には跡部さんや真田さんという、あの代で有名な人もたくさん選ばれた。

一年生でやるなあと本当に思う、我が兄ながら。

まあ留学って言っても、夏休み期間に向こうで親善試合したり、とかだから留学とまで言わない気もするけど。



「すげえよな、あの人」

「本当に、どこまでも行っちゃうから追いつくのが大変」

「いつかぜってえ抜いてやる」

「一応応援してます」



一応という言葉が気に入らなかったのか、少しだけムッとする赤也。

あんたもいい加減慣れろ。

あたしがこんな女だってことに。



「そういやさ、いい加減教えろよ…なんで立海のテニス部にしなかったんだよ」

「だから言ったじゃん、もう出来上がってるチームに、二年生が入っても微妙でしょう?」

「それだけじゃねえだろ」



じっと見つめられる。

あたしはその後、立海の女子テニス部ではなく、地元のテニスクラブに行くようになった。

赤也からは何度も「なんで学校のじゃ駄目なんだよ」って言われたけど…すぐに三年生になるメンバーが入って、急にレギュラー取ったら(まあ取れる確証は無いけど)…チームが乱れるような気がするんだよね。

まあ、勝負の世界だからそんなこともあるのかもしれないけど…。

あたしは、嫌だ。



「正直なことを言うと」

「おう」

「…立海じゃ、あんたと戦えないじゃない」

「…は?」



間抜けな顔…。

あー、なんかすっごい恥ずかしい。



「同じ部活やってて、しかも女子と男子だよ?ミクスドで組むしかないじゃない」

「だからって…俺この間お前が別のやつとミクスド組んでんの見てムカついたんだからな!」

「あんただって他の子と組んだんだからお相子でしょ?それにちゃっかり勝ったんだし…」

「お前が居ないんだから仕方ねえだろ」



意外とヤキモチやきだよな…赤也って。

この間公式戦じゃない大会であたしとミクスドで当たった時の顔…ちょっと忘れられそうに無い。

まあ、ちゃんと後で謝ったんだけど…まだ引きずってたか。



「よし、決めた…嬉沙、高校に入ったらミクスド組むぞ」

「は?ちょっと…勝手に決めないでよ」

「別にいいだろ?俺とお前なら全国制覇も夢じゃないって」

「その前にあんたは兄さんを倒しなさいね」

「うっ…見てろよ、絶対部長たちを引き摺り下ろしてやる!」



下克上って赤也に似合うと思う。

氷帝の日吉くんにも似合ってるけど…。

そういえば、裕太はどこに行くんだろう?

ちょくちょく連絡は取っているけど…最近お互い忙しくてご無沙汰だったからな…。

今度聞いてみるか。

何故か、視線を感じる。

まあ、今この場にあたしと赤也しかいないから、その視線の主は赤也になるんだけど。



「おい嬉沙…今他のやつのこと考えてただろ」

「ああもうめんどくさい」

「あっ考えてたんだろ!俺と居るのにいい度胸じゃねえか」

「あーはいはいごめんなさい、考えてました、すいませんでした、これでいい?」

「心こもってねえだろ!」

「ああもうただでさえ暑いのにこいつは…ほら、早く行くよ」

「あ、待てよ嬉沙!」



先に歩いて行くあたしを追う赤也。

急に立ち止まれば、後ろで急ブレーキをかける。

振り向けば、「なんだよ」なんて。

数歩歩いて赤也に近寄り、頬に唇を寄せる。



「これで満足ですか?赤也くん?」



ニッと笑わせて見せれば、きょとんとした後、じわじわと赤くなっていく赤也。

普段こんなことしないから…仕方ないか。



「…馬鹿面」

「なっ!うるせえ!おい嬉沙!こっち向け!」

「やだ、めんどくさい」

「やられっぱなしは性に合わねえんだよ!おい!」

「…うるさい」



まさか自分がこんなに感情豊かに出来るなんて思わなかった。

いつも拒絶するような眼差ししか人に送っていなかったから、ずっと笑顔なんて…。

でも、悔しいけど、赤也に出会って、自然に自分の感情が表に出せるようになった。

まだまだお互いいじっぱりで素直じゃないから、こんな関係だけど…。

どうにも、あたしをこんな風に笑顔に出来るのはあんただけみたいだ。

あんたが…赤也があたしを”あたし”にしてくれたんだ。

だから、あんたから貰った”あたし”を、あたしは大切にして行きたい。

赤也から貰った、この”証”を。



「よーし、こうなったら図書館まで競走な!負けた方が勝った方の言うこと聞くってことで!」

「あっ、ちょ、勝手に決めんな!…馬鹿っ」






(君に捧げる僕のpledge【証】)


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