さあ、そろそろハッピーエンドだろ






episode29、伝える






朝練が終わり、俺たちは部室で制服に着替える。

今日は全員が終わるまで皆が待っていて、副部長が中を確認した後、俺が鍵を閉めていた。

ふと、遠くから此方に向かって走ってくる足音。

他の部活のヤツかを視線を投げてみると、そこに居た人物に驚いた。



「お、おはようございます…」

「ああ、おはよう」



柳先輩が答える。

その隣に、部長が並ぶ。



「嬉沙、どうしたんだい?」

「えっと…赤也、居る?」

「俺…?」



先輩たちが道を空け、嬉沙と目が合う。

驚いている俺に、嬉沙はこくりと頷いた。

不意に、横から鍵を奪われる。



「赤也、行って来い、鍵は俺がやっておく」

「え、副部長?」



いいから、と言って、背中を押される。

なんだか凄く副部長らしくない感じがしたけど、副部長の言葉に甘えて、俺は嬉沙と共にその場を去った。

俺たちの背を見送りながら、先輩たちが言う。



「やるなあ、あの二人」

「俺の妹だからね、嬉沙は行動派だよ」

「けど、あの二人がねえ…随分成長したんじゃね?」

「そうですね、喜ばしい限りです」

「…おめでとう、二人とも」











誰も人が居ないことを確認すると、嬉沙は俺に向き直る。

…ちょっと、ドキッとした。



「ごめんね、朝練で疲れてるのに」

「どうってことねえよ」

「どうしても早く伝えたくってね」



ニコリと微笑む嬉沙。

あの笑顔が俺に向けられてるのがすっげえ嬉しくて…誰も居なきゃガッツポーズの1つでもしてそうだ。



「この間の返事なんだけど…」

「お、おう…」



ついに、来た。

期待半分、不安半分…静まれ俺の心臓。

緊張で口から変なものが出そうだ。

試合でもこんなに緊張しないのに…俺、かっこわりい。



「あれから冷静に考えてみたんだ…あの状況じゃちょっと無理があったからね」

「わ、悪かった…」

「…ごめん、ちょっとからかっただけだから」

「…心臓に悪いからやめろよな」



なんでこいつこんなに余裕なんだよ。

俺ばっかりこんな…不公平だろ。

もしかしなくても…駄目だ、考えるな、ネガティブなんて俺じゃねえ。



「あたしはね、他人ととにかく関わりたくなかった…”幸村精市”の妹としてあたしを見るやつらなんて…ろくなヤツが居なかったから」

「嬉沙…」

「…最初あんたもあたしをそう見てるんだと思ってた…」

「うっ…まあ、違うとは言い切れない…」

「でも、あんたが他のやつらと違ったのは、ちゃんとあたしを”あたし自身”として見ようと努力してくれたこと…嬉しかった」



嬉しそうに笑う嬉沙の表情を見て、俺まで幸せになれる。

心底惚れるってこういうことか…。

我ながら…どうなんだろうこの入れ込みっぷり。

今まで何度も恋したけど…こんなに本気なのは、きっと最初で最後だ。

というか、それがいい。



「そのことに戸惑って…あんたに迷惑かけてばっかりだったけど…ちゃんと”幸村嬉沙”を自分で持つことが出来た…ありがとう」

「…どういたしまして…で?」

「…でって何よ」

「伝えたいことは、それだけなのか?」



ふふんと効果音がつきそうな感じの顔。

いつも俺が振り回されてるんだ、今度は俺の番だろ。

案の定、嬉沙の表情…いつも俺こんな感じなんだろうか。



「それ…だけじゃないけど」

「ほら、言えよ、HRに間に合わなくなるぞ」

「…いつもはオドオドしてるくせに、何よいきなり」

「だから、早くしろって」



可愛くない、なんて言う。

うるせえ、なんて答えてみる。

いいんだこれで、これが等身大の俺たちだから。

一度溜め息をついた後、まっすぐに俺を見る嬉沙。

そしてゆっくりと言葉を紡いだ。






「そうだね…あたし好きみたい…赤也のこと」








To be continue...


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