叫んだと同時に、身体が動いた。
流石にグーじゃなくパーだった。
けど、俺は思いっきり嬉沙の頬をぶっていた。
嬉沙は一瞬何が起きたか分からず、唖然としていたが、すぐに頬を押さえて俺を見つめてくる。
「お前、今の言葉…幸村部長に言えるのかよ?」
「え?」
「今の言葉は部長にも、テニスを真剣にやっている奴にも失礼なんだよ!エゴだ?俺にはそんなものわかんねえ、分かりたくもねえ、はっきり分かるのはお前はまた逃げようとしてるってだけだ!」
「なっ…!」
「テニスが嫌いなのは構わねえよ、本気で好きになれないなら嫌いのままでいい、けど本心はテニスがしたくてたまらないんだろう?最初は部長がやってるからって始めたけど、気づけば楽しくなっていた、違うか?」
「・・・」
俺から目を逸らす嬉沙、まあ、図星なんだろう。
「なあ、もっと周りを見ろよ…お前の周りは全員がお前を”幸村精市の妹”としてみる奴ばかりだったか?そうじゃないだろ、ちゃんと”お前”を”幸村嬉沙”として見てくれる奴はたくさん居る!今だって、これから始まる未来にだって!」
「そんなの、分からないじゃない…!そう信じて頑張ってきたけど…あたしはやっぱり認められてなくて…!」
「認めてもらえなければもっと努力すればいい、それでも駄目なら次の手を考えればいい!部長の妹として見られたくないんだったら、不二みたいに頑張ればいい、それに、部長がお前と同じ立場ならあの人は絶対に諦めたりしない!それがお前の兄さんだろ!」
「・・・」
「もうこの際、俺から逃げてくれてもいい、けど、お前自身の気持ちからは逃げるんじゃねえ」
俺からお前が逃げ出すのは、俺が辛い思いをすればいいだけだ。
それでお前が楽になるんなら、逃げ出すお前を追おうなんて馬鹿なことは考えない。
「俺はお前が自分の気持ちに嘘をつくことだけはして欲しくない、それは、お前自身にも失礼だし…何より、お前を心配してくれてる、部長や米倉に失礼だ」
「・・・っ」
ぶわりと、嬉沙の目に涙が溢れる。
でも、それに気づいたのか、すぐに目を擦って俺に見られないようにする。
馬鹿、そんなに擦ったら目が腫れちまうだろ。
嬉沙の目が腫れてしまう前に俺が目の前から消えないとと、嬉沙の横を通って扉を開く。
「…ぶって悪かったな…俺が言うのもなんだけど…ちゃんと冷やしとけよ」
そう言って、嬉沙の方に振り返らず、屋上を後にする。
すぐにあいつの嗚咽か何かが聞こえたけど、今は、聞こえていないふりをした。
To be continue...
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