チャンスを掴み取れ。
episode19、好機
練習が終わった後、幸村部長からプリントが渡された。
見てみるとそれは試合の組み合わせ表で、顔を見上げればニコリと微笑まれた。
「何すか、これ」
「今度の日曜日、関東地区の中学で練習試合をやることになってね」
「ま、マジっすか!?」
思わず嬉しくて笑顔になる。
関東地区と言えば青学もきっと来るんだろう。
氷帝だって…いろいろな奴等と試合出来ると思うとワクワクしてきた。
「何処が来るんですか?」
「ウチに青学…氷帝、ルドルフ…山吹に六角…あと緑山も来るって言ってたかな」
「すげえ、都大会に出場したチームばっかじゃないっすか!」
「青学の竜崎監督と氷帝の榊監督主催だからね」
紙を宙に掲げながら喜んでいると、周りに居た先輩たちからニヤニヤと笑われる。
自分の行動が恥ずかしくなって、コホンと咳払いを一つ。
そんな俺に、幸村部長が手招きするので寄っていけば、耳元でぼそりと呟かれる。
「嬉沙に応援に来るように誘ってみなよ」
「え、む、無理っすよ!あいつが来る訳ないじゃないですか!」
「来るよ、赤也の頼みなら」
「え?」
「ねえ、頼む」
幸村部長の目が少しだけ悲しそうに見えた。
何だかよく分からなかったが、とりあえず「はい」と頷いた。
次の日、一つ深呼吸をして、前に座っている嬉沙に話しかける。
「嬉沙!」
「そんな大きな声で呼ばなくても聞こえるよ、何?」
嬉沙と話していた米倉まで此方を向く。
「そ、その」
「何、もじもじするなんて気持ち悪い」
「う、うるせえ!…おい」
「だから何よ」
嬉沙の顔が歪んでくる。
落ちつけ、まだ大丈夫だ。
「今度の日曜日、練習試合あるんだ」
「ああ、兄さんがそんなこと言ってたね」
「だからその…見に来いよ!」
「…は?」
心底驚いたと言いたげな表情で嬉沙が俺を見てくる。
そんな視線も気にしないように、俺はピシャリと言う。
「だから、試合見に来いって言ってんだよ!」
「は、あ、ちょ…」
「いいか、絶対だからな!絶対来いよ!」
そう言うと、逃げるように鞄を持って教室を後にした。
あの時の米倉の嬉しそうな顔と、嬉沙のキョトンとした顔が脳裏に浮かぶ。
それでも、ちゃんと伝えられたことが嬉しくて、人目も気にせず「よっしゃ!」とガッツポーズを決めた。
To be continue...
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