正直、幸せすぎてどうにかなりそうだ。
episode17、笑顔
「次、何?」
「ああ、そこの棚にあるやつ」
「了解」
幸村部長の策略により、俺と嬉沙はテニス部の買出し中。
嬉沙は困っていたけど、正直俺は心の中で「ラッキー」と叫んだ。
最近お互いに気まずかったけど、この間の電話でそれもなくなった。
そういえばあれも部長のおかげだったな…。
「はい…持てる?」
「ばーか、伊達に鍛えてないっての」
「そう、そりゃ頼もしい」
言い方に可愛げがないが、俺にとってはそれも可愛い(俺ベタ惚れじゃん)
そういえば、嬉沙の私服見るの、今日が初めてだっけ。
へえ、そういう服着るんだ、とか俺ばっかりが気になってるんだろうなと思うと、何だか妙に虚しくなった。
俺はこんなに嬉沙のこと意識してんのに、こいつはそんなんじゃないんだろうな。
いつか丸井先輩が「恋って難しいんだぜ」って言ってきたけど、本当にそうだ。
初恋って言ったら嘘になるかもしれないけど、こんなに抑え切れそうにないようになるのは初めてかもしれない。
「あ」
「何?」
「そういや、グリップテープ…」
昨日の練習できれてるの気付いたっけ。
買っておかねえと行く暇なさそうだな…。
でも、相手は嬉沙だしなあ。
「グリップテープ、きれたの?」
「ん?あ、ああ」
「…スポーツ専門店、隣のフロアだったよね」
「え?」
隣のフロアに行こうとする嬉沙に、俺は驚いた。
「い、いいのか?」
「何で?必要なんでしょ」
「いや…だってテニス…」
「…あのね、いくらテニスが嫌いって言ってもテニス用品まで見たくないとまで言わないけど」
「そうなのか?」
「そう言ったらテニス部のあんたとも会話出来ないでしょ」
それもそうだ。
それに、最初に比べて嬉沙のテニス嫌いも和らいできた気がするしな。
場所は変わってスポーツ専門店。
先程から、二人で俺のグリップテープを見ている。
「あ、これとかいいんじゃないの?」
「お、いいじゃん」
「でしょ?」
「じゃあ、俺これ買ってくる」
嬉沙が選んでくれたグリップテープを手に持ち、俺はレジに向う。
会計を済ませると、まっすぐ嬉沙の許へ向う。
俺の目線の先に居る嬉沙は、何だか寂しそうな目でラケットを見つめていた。
その視線に気付いて、俺は何も言えなくなった。
「…嬉沙」
「え…会計、すんだの?」
「おう、ごめんな」
「いいよ…出よっか」
空は薄暗くなり、太陽も沈みかけていた。
朝会った噴水の前で、俺たちは空を見ていた。
「あっという間だったね」
「そうだな」
朝二人して沈黙したのがさっきのことみたいに感じる。
そんなことを考えていると、嬉沙が俺の方を向いて言った。
「今日は楽しかったよ」
「…変に素直だな」
「こんなところまで意地張ったりしないわよ」
少しだけ嬉沙の眉間に皺が寄る。
コイツ、こんな風に素直なら絶対に可愛いのに。
…まあ、俺以外にこんなところ見せられるなんて考えただけでどうかなりそうだ。
携帯を見ると、もうじき電車が来る時間だった。
名残惜しいが、俺は二、三歩前に進み出る。
「じゃあ、そろそろ」
「…うん」
「また、学校でな」
「うん、またね」
俺が手を振ると、さりげなく手を振り返した##NAME1##の表情は、今まで見たどれよりも眩しい笑顔だった。
To be continue...
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