ああ、この瞬間が心地いいのか。
episode16、共に過ごすひと時
昨日のこと。
明日は休日かと考えつつ、また休日を持て余してしまうのかと考えていた。
勉強、と言ってもまだ二年で受験とかそういうのは全く意識していないし、困らない程度には勉強している。
それに受験って言っても、立海に居る以上、あたしの進学先は決まっているようなものだ。
そんなことを考えていると、ニコニコと笑いながら兄さんがやってきた。
「嬉沙」
「何、兄さん」
「明日なんだけど、暇だよね?」
「あ、うん」
なんだろう。
兄さんがこういうのって珍しい。
「明日ちょっと付き合って欲しいんだけど…いいかな?」
「うん、別に暇だし」
「そう、じゃあさ、俺少し用事があるから…先に駅で待っててくれるかな?」
「あ、分かった」
そう返事したあたしに、兄さんはこれでもかというくらいいい笑顔を浮かべた。
あの時気付いておけばよかったのかもしれない。
兄さんと過ごして来て何年経とうが、まあ兄さんには勝てそうな気がしないんだけど。
そういう訳で、あたしは駅前の噴水(まあ此処が一番分かりやすい)前で兄さんが来るのを待っていた。
そう、兄さんを待っていた筈だった。
「あ、嬉沙?」
兄さんとは別の声で名前を呼ばれ、疑問符を浮かべながら振り向くと、其処には予想外の人物が此方を見て驚いていた。
「赤也…?」
「お前、こんなとこで何してるんだよ」
「…別に、赤也こそ」
「あ?俺は部長に買出しについて来いって言われて…」
「…は?」
思わず声が出た。
今、赤也はなんと言っただろうか。
「今…部長って…」
「おう、だからお前の兄貴の幸村部長に駅で待ってろって…」
「あたし、今日兄さんから付き合ってくれって頼まれたんだけど…」
「へ?」
「「・・・」」
二人とも沈黙。
確実に二人とも考えていることは同じ、”嵌められた”の一言だ。
昨日のあの爽やかな兄の笑顔を思い出しつつ、あたしは溜め息をついた。
「…兄さんったら、何考えてんだか」
「そういうことなら、お前帰れよ…俺は本当に買出し行かねぇといけねぇし」
そう言って、赤也がメモをチラつかせる。
買出しに行くのは本当なんだ…ってことはあたしの方が嘘なわけか。
まあ、どうせ暇だったしいいか。
「いいよ、あたしもついていく」
「いいって」
「どうせ暇なんだし、邪魔はしないから」
「…じゃあ、さっさと終わらせるか」
「うん」
まあ暇だし、相手は赤也だしという二重の理由で、今日一日をテニス部の買出しに費やすことになった。
To be continue...
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