間違っていない、ゆっくりでいいんだ。








episode15、ありのままで







あいつと話さずに時間は流れ、俺は今合宿の真っ只中。

練習中は、あいつのことを考えないようにした。

副部長は何か気付いていたみたいだけど、何も言ってこなかった。

他の先輩達も、何も聞かない。

それが先輩達なりの優しさで、なんだか嬉しかった。

本当に、いい先輩に巡り合えた。

…まあ、口には出さないけど。












練習後、丸井先輩達と話をしていたのを抜け、散歩に出かけた。

なんだか一人になりたくて、いろいろ考えていた頭が冷えていくのが分かった。

凄くすっきりして、なんだかほっとする。

ふと、誰か人影を見つける。

それが誰かすぐ分かって、なんとなく寄っていく。

相手も俺に気付いたようで、視線を送ってくる。

それは幸村部長で、誰かと電話をしているようだった。

会話の内容で、すぐに相手が誰だか分かったが。



「うん、大丈夫だよ嬉沙は心配性だな」



ああ、嬉沙か。

久しぶりに名前を聞いた気がする。

ここ最近、先輩達との会話の中で、気を使われてかその名前が出ることはなかった。



「はいはい…あ、ちょっと待って」



そう言うと、幸村部長が俺に手招きする。

それに、俺は寄っていく。

どうしたんですか?と口パクで聞けば、電話を指差す。

どうやら、代われと言っているらしい。



「今から赤也に代わるから…うん、そう、切っちゃ駄目だよ」



「はい」と俺に電話を渡してくる部長。

一瞬、受け取ることを躊躇したが、覚悟を決めて受け取り、耳に当てた。

決めたんだ、ちゃんと向き合うって。



「…嬉沙か?」

『赤也?…久しぶりだね』

「ああ、まあ毎日会ってるんだけどな」

『でも、会話するの久しぶりだし』

「…そうだな」



嬉沙の声がする。

そりゃ、全く声を聞いていなかったわけじゃない。

だけど、こうして俺に話しかけてくれる声は、久しぶりだ。



『合宿、頑張ってるの?』

「おう、先輩達にビシバシやられてる」

『相変わらずそうだね…怪我しないでよ?』

「俺頑丈だから」

『皆そう言って怪我するんだから』



そういじけた様に言う声に、素直に「ごめん」と謝る。

その光景を、幸村部長が優しい目で見ていた。



「なあ、嬉沙」

『ん?』

「ごめんな」

『…なんで、謝るの?』

「俺、自分勝手だったよな」

『そんなことないって…あたしが、悪かったんだから』



嬉沙の声が少しだけ震える。



「謝んなくていいって」

『それはこっちの台詞…でも、やっぱり…まだ理由は話せないから』

「ああ、いいってそれで」

『赤也?』

「嬉沙が話したい時に話せばいい…そうずっと思える時が来ないなら、話さなくていい」

『・・・』

「俺、決めたから」



決めたんだ、待とうって。

焦らずに、ゆっくりいこうって。



「ゆっくりでいい、嬉沙のペースで…無理しなくていいから」

『…なんか、赤也じゃないみたい』

「ああ?!」

『そうそう、それが赤也だよ』

「お前…せっかく俺がこんなに考えてやってんのに…」

『…有難う』

「は?」



今、何て言った?



『有難うって言ったの』

「お、おう…」

『そんで、迷惑かけてごめん』

「迷惑かけられたなんて思ってねえよ」

『…でも、ごめん』

「…ばーか」

『馬鹿で結構』



そう言う嬉沙に、二人して笑った。

あ、そういえばこれが部長の携帯だって忘れてた。



「そろそろ部長に代わるな」

『あ、うん』

「部長、有難うございました」

「ううん、これで安心したよ」



ニコリと笑う部長。



「…心配かけて、すいませんでした」

「…まあ、まだまだ未熟な妹と後輩だからね」

「ういーっす」

「…有難う、赤也」



思わずキョトンとする。

それでもすぐに嬉しくなって、部長に向って笑顔をつくった。

ああ、これで、少しはあいつの辛さをとってやれただろうか。







To be continue...


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