どれだけ距離をとれば、君は遠くなるんだろう。
episode12、迷い
屋上での件があってから、赤也とは口を利いていない。
別に、拒絶しているわけではない。
ただ、今は話す気にならない…あ、でもこれって拒絶になるんだろうか?
あいつの方だって、微妙にあたしを避けてるし…。
それも仕方ないか…あんだけ言ったんだ。
あたしが言ったんだ、「あんたには理解出来ない」って。
我ながら酷い言葉だと思う。
あいつはあいつなりにあたしを心配してくれているんだ。
それは痛いくらいあたしにも分かる。
でも、あたしはそれを望んでいるわけじゃない。
あたしがテニスを嫌いな理由だって、他人から見れば馬鹿げたことで…だけど、あたしにとってはとても重要なことで。
無理に理解して貰えなくても話すぐらいいいんじゃないか、なんて安易な考えも出てくる。
でも、あたしのことで、誰かに迷惑なんてかけたくない。
…なんて、もう充分いろんな人に迷惑をかけているんだけど。
あいつを突き放したことで、なんだか自分の中に穴が開いたみたいに虚しい。
こんな風に自分がなってしまうなんて思っていなかった。
まあ、あんだけ話したりしてたんだ…寂しくもなるか…なんて、簡単な理由じゃ片付けられない気がする。
知らないうちに、あたしの中で、あいつの存在が大きくなってきたんだ。
兄さんは兄さんで、あのことについて何も聞かないで居てくれた。
それは、今のあたしにとって凄く救われた。
「嬉沙ちゃん…」
真知が、恐る恐るあたしに話しかける。
きっと、赤也に話したことを怒っていると思ってるんだろうな。
そんなに気にすることないのに…そういうとこが真知のちょっと悪いところかな?
まあ、いいところでもあるんだけど。
「怒ってないよ、真知」
「え?」
「赤也に昔のこと話したこと…怒ってなんかないから」
「嬉沙ちゃん…」
真知が安心した表情をする。
ほら、そう笑ってる真知が、あたしは好きなんだから。
「でも、呼んで来ちゃうのはやりすぎかな?」
「…それは、私が嬉沙ちゃんにとって必要だと思ってやったことだから」
「…そっか」
正直、あの時恐かったのかもしれない。
あいつが来て安心したのかもしれない。
今のあたしには、なんとも言えない。
「ねえ、真知」
「なあに?嬉沙ちゃん」
「…あたしが、間違ってるのかな?」
そう呟いたあたしに、真知が小さく「嬉沙ちゃん」とあたしの名前を呼ぶ。
馬鹿だな、あたし…。
真知に答えを求めてどうするんだろう。
なんだか少し、自分が惨めに思えた。
To be continue...
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