「うわ、何これ」
女子の1人が真知の手からスケッチブックを取り上げる。
「あ…!」
「めっちゃ描いてるし…」
「何々?うわっ本当だ!」
キャーキャーと声を出しながら乱暴に扱う。
そして、リーダー格の1人がスケッチブックを持って真知の前に立つ。
そのまま手で上下に引き、紙の破れる音が教室に響く。
破られた紙は、宙を舞って床に落ちた。
「あ、ごめーん、手がすべっちゃったみたい」
もう、我慢の限界だった。
「ねえ」
堪らずに声を出す。
全員の視線が、あたしの方を向く。
「何よ」
「本当に暇な人達だね」
「何が言いたいのよ」
「いちいち言わなきゃ分かんない?人にそんなことして楽しいの?」
頬杖をつきつつ、下から顔を見上げる。
一瞬、ビクリと体が震えたのが見えた。
「いい子ぶるつもり?」
「別に、あたしいい子じゃないし…ただいい加減煩いなと思って」
「…幸村先輩の妹だからって、いい気になんないでよ!!」
ガンッとあたしの横にあった机が蹴られる。
その瞬間、ギロリと睨む。
幸村先輩の妹?
またそれな訳?
あんたもそれしか言えないの?
「今兄さんと何の関係があるのよ」
「は?」
「本当に、どいつもコイツも…口を揃えて妹、妹って…それしか言えない訳?」
椅子から立ち上がると、真知達の方に歩いて行く。
「な、何よ…」
「じゃあ逆に聞くけどさ、あんた何様な訳?」
「え…」
「人を見下してそんな優越感に浸るのがそんなに楽しいんだ、ふーん…寂しい人だね」
「は?!何言ってんのよ!!」
「そうやってしか自分を位置づけ出来ないんでしょ?」
「・・・!」
反論はしてこない。
まあ、事実だしね。
かなり近くまで来て、今度はあたしが上から見下ろす。
「自分達が何やったか、ちゃんと分かってるよね?」
「…え」
「次、あったら…どうなるかな?」
ニッコリと笑いかける。
「次は…もうないと思った方がいいよ?」
顔が青くなっていくのが分かる。
そして、何人かの女子は、目尻に涙が溜まっていた。
リーダー格の1人が教室を飛び出すと共に、全員外に飛び出して行った。
まあ、効いたよな…。
兄さん直伝の脅しだし。
床に散らばった絵の残骸を拾い集める。
「もう…いいよ」
真知が泣きながら言う。
「…あたしがよくないの…せっかく気に入ってたのに」
筆箱の中からテープを取り出して、1枚1枚を修復していく。
そして、真知に渡す。
「はい」
真知の動きが止まる。
息を呑むのも分かる。
それでも、少し遅れて、絵を受け取った。
「ね、米倉さん…やっぱり美術部入りなよ」
「でも…」
「米倉さんの絵ってさ、人を暖かくさせる力があると思うんだ」
「力…?」
「うん…だからさ、もっともっと、力を磨いてみたら?」
あたしの言葉に、真知が自分の絵に視線を移す。
そして、弱弱しい声で話し始めた。
「…自分の絵に自信がなかったのは、小学生の時に絵を馬鹿にされたからなの」
「うん」
「本当はね、美術部に入って…同じくらいの年の子がどんな絵を描くのかとか、ずっと見てみたかったんだ」
「うん」
「でも…こんな私だから、入る勇気も無くて…」
肩が震え始める。
そして、真知の目からは涙が零れていた。
「ね…行ってみない?美術部」
「…うん、行ってみたい」
「よし、それとね」
「…何?」
真知が顔を上げる。
そんな真知に、ニッコリと笑いかける。
「真知って呼んでもいい?」
「…え?」
「…駄目?」
「ううん…全然大丈夫」
「よし、じゃああたしのことも名前で!」
「嬉沙ちゃん…?」
「うん、なあに?真知」
ニコリと笑いかける。
そうすると、真知も微笑み返してくれた。
「ねえ、嬉沙ちゃん」
「ん?」
「嬉沙ちゃんも…テニス、もう一度挑戦してみてね」
「…うん、やってみる」
その後、真知は美術部に入部した。
美術部の先輩達は凄く優しくて、真知もすぐ馴染む事が出来た。
「成る程、な」
赤也が言う。
それに、ゆっくりと真知が頷く。
「私が此処までやってこれたのは、嬉沙ちゃんが居たからなんだ…だから、嬉沙ちゃんには凄く感謝してるの」
「米倉…」
「だから、嬉沙ちゃんが困ってるなら力になりたい!でもね、私よりも、切原君の方が、嬉沙ちゃんの力になれるんだよ」
「俺の方が?」
赤也が問うと、真知が微笑む。
「切原君に見せる嬉沙ちゃんの表情…ときどき、見たことないくらい優しい時があるから」
「・・・」
「私ね、人任せかもしれないけど、切原君なら##NAME1##ちゃんの鉛ととってくれるんじゃないかって」
「俺が?」
「うん」
ニッコリと微笑む真知。
赤也が、少しの間黙る。
「米倉…嬉沙、屋上に居るんだよな」
「う、うん…」
「待ってろよ!必ず助けてやるからな!!」
そう言って、赤也は部室を飛び出した。
To be continue...
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