知らないことが多すぎた。






episode9、君のこと






最近、アイツが最初に比べて心を開いてくれたんじゃないかって思う。

あの人を見下したような笑い方も、柔らかくなってきた。

そして、テニス部のメンバーとも嫌な顔をせずに話すようになった。

けど、それが事態を呼んだ。



「幸村さん…よね?」



嬉沙が呼び止められる。

それに、面倒くさそうに嬉沙が振り返る。



「そうですけど、何か?」

「ちょっと、時間貰える?」



そう言われた瞬間、溜め息をつく。



「…いいですよ」










「ああ、だりぃ」

「そう言わないで下さいよ丸井先輩」



俺達は幸村部長と真田副部長が不在ということで、ミーティングという名目で部室でゆっくりと過ごしていた。

まあ、部長達も了解済みだし、柳先輩だって読書してるし。



「だりぃっつっても…何もしてないじゃないですか」

「けど日頃の疲れが一気に来たんだよ、だりぃ」



グタリとしながら椅子に座る丸井先輩。

だが、すぐにバッと起き上がる。



「そうだ!赤也、今どうなんだよ?」

「どうって…何がッスか?」



唐突になんだこの人。



「何って…嬉沙のことに決まってんだろぃ」

「好きですよね、その話」

「それは俺も気になる」



そう言って、仁王先輩も話に入ってくる。

気がつけば、柳生先輩や柳先輩、それにジャッカル先輩も近づいてきていた。

…本当に暇だなこの人たち。

気づけば、俺は先輩達に囲まれていた。



「で、どうなんだ?」

「…どうもこうも…何かあると思います?」

「…無いとは予想していたがな」



柳先輩が言う。

たく、予想してたなら聞くなよ。



「でも、嬉沙さんは最初の頃に比べて随分柔らかくなりましたよね」

「ああ、それは俺も思う」



柳生先輩とジャッカル先輩が言う。



「というより、少し笑うようになったんじゃよ」



仁王先輩が言う。

最初の頃は、本当に無表情に近かったしな。

元々知っていた副部長と柳先輩以外には微妙な反応だったし…。



「これも、赤也が頑張った成果だな」



ジャッカル先輩が言う。



「おう、もっと自信持っていいんじゃねぇの?」



ニッと笑いながら丸井先輩が言う。

けど、その言葉がクサリと刺さった。



「自信…とか持てないッスよ」

「え?」



何だか先輩達の顔が見れない。



「俺、アイツのことよく分かんねぇんスよ…」

「分からないとは?」

「どうしてアイツがテニスが嫌いなのかとか」

「それは幸村だって分かってねぇだろぃ」

「でも、嫌いとか言いつつ、本当に嫌いかどうかも分かんねぇんです」



先輩達が顔を見合わせる。

やべ、俺何言ってるんだ。



「アイツ、嫌いって言ってるけど…全然そんな風に見えねぇし…時々寂しそうな顔するんです」

「嬉沙が…」

「それに、俺達の前で本当に笑ってんのかって…」

「それは自信を持っていいと思うぞ」



柳先輩が言う。

その言葉に、俺は顔を上げる。



「あの笑顔には偽りは無い…少なくとも俺はそう思う」



その言葉に、何だか泣きそうになった。



「全部受け止めようなんてかっこいいことをしようとするんじゃなか、今自分が出来る範囲でいいんじゃよ」

「そうですよ、切原君の言葉で、彼女だって救われている筈です」

「嬉沙が赤也のおかげで今みたいになったのは事実だ、自信持てよ」

「何もしなくても、傍に居てやるだけでいいんだよ」



先輩達が言う。

その言葉に、視界が歪んだ。

そんな俺を見て、丸井先輩が困ったように言う。



「ああ、おいおい泣くなよ」

「な、泣いてないッスよ!!」

「目うるんどるぞ?」

「こ、これは汗ッス!」

「…本当に居るんだな、こういうこと言う奴」



ジャッカル先輩がしみじみと言う。

そのすぐ後、部室のドアがノックされる。

柳生先輩がドアを開けに行く。

ドアの前には、息を切らした米倉が居た。



「米倉…?」



席から立ち、米倉を見る。

米倉は俺に気づき、泣きそうな声で言った。



「切原君…!」

「ど、どうしたんだよ」

「お願い!早く、嬉沙ちゃんのところに行ってあげて!」

「え?」





To be continue...


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