どうにも不思議な感じだ。







episode8、同じ思い






休日、家に居るのも暇だったので出掛けることにした。

場所は東京。

わざわざ人の多いところまで行くことはないと思うけど、今回はちゃんとした理由がある。

あたしのお気に入りの洋菓子店が、東京にあるのだ。

これでもあたしは甘党だったりする。

店に入ると、新発売のケーキを発見。

これは食べないとと思い、注文をする。



「「あの」」



声が重なる。

隣を見ると、同じ年くらいの男子が居た。

同じものを頼もうとしたらしいが、ケーキは1つしかない。

2人とも何も言わず、お互いに睨み合う。

…これは先に言ったもの勝ちだな。

決意をして言おうとした瞬間、後ろから声が聞こえる。



「あの、新発売のケーキ…」



そう言おうとしたらしいが、2人同時に勢いよく振り返ってしまった。



「あ、やっぱ別のでいいです…」



勢いに負けたらしく、その人は注文を変えた。

その時、隣の彼と目が合う。

そして、何故だか笑い出す。

それにつられて、あたしも笑う。



「なあ」

「何?」



彼が話しかけてくる。



「このケーキさ、もし良かったら一緒に食わないか?」



突然の提案。

というか、お互いに誰かも分からない赤の他人だ。

それでもあたしは、「いいよ」と答えた。












彼は紅茶、あたしはコーヒーを飲みつつ話していた。

テーブルの中心には、先程2人で勝ち取ったケーキが乗っていた皿が置いてある。



「だろ?お前もそう思うよな!」



彼がニコリと笑う。



「兄弟って比べられて本当に面倒くせぇよ」

「だね、何で比べられないといけないのって感じ」

「だよなだよな、俺は俺だっつーの!」



うんうんと頷きながら彼が言う。

似てる…そう思う。

彼とあたしはよく似てる。

兄弟に対するコンプレックスとか…あたしの気持ちが分かってくれる人。



「君のとこもお兄さんだよね?」

「そうそう、だから兄貴と比べられるんだよ、”お兄さんは〜”とか言って」

「分かる分かる、あたしも”お前のとこの兄貴は〜”とか言われるよ」

「やっぱ同じこと言うんだよな、人間って」

「だよね…そういえば、君はお兄さん嫌いなの?」

「え、何でだ?」

「さっきから聞いてるとあんまりいいと思ってないみたいだから」



あたしが言うと、彼が考え込む。

そして、微妙な表情で言葉を発する。



「昔は…嫌い、だった…かな?」

「昔はってことは…今は違うの?」

「今は…越えたい存在」

「へぇ…」

「俺にとって、兄貴は越えたい存在…まあ尊敬してるってことかな…お前は?」

「あたし?あたしは兄さんのこと大好きだよ」



これだけは、自信を持って言える。

兄さんと比べられるのは嫌いだけど、兄さんのことは大好きだ。

あたしがそう言うと、彼はニッと笑った。



「そっか!仲いいんだな!」

「うん、君のとこは?」

「あー…兄貴が俺に構う…って感じ」

「嫌なの?」

「嫌じゃねぇけど…その、越えたい存在にそうされると複雑っていうか…」

「きっとお兄さん過保護なんだよ」

「過保護?!…もしそうなら弟離れして欲しいぜ」



そういう彼も満更ではないらしい。

やっぱり、お兄さん好きなんだな。



「あ、いけね!」


彼が時計を見て言う。

そして、席を立つ。



「俺、寮に戻んねぇと…」

「あ、そうなんだ…有難う、同じ境遇の人と話が出来て良かったよ」

「俺も、じゃ!縁があったら」

「うん、また縁があったら」



そう言うと、彼は走って店を出た。



「さて、あたしも帰ろうかな…」










「た、ただいまッス!!」

「おや、遅かったですね」



寮に着いた彼は、肩を上下させながら息を整える。

そんな彼の前に、制服に身を包んだ少年が居た。



「…何かいいことでもあったんですか?」



少年が問う。

それに、彼はニッと笑い答える。



「ちょっと」

「ほぅ…それは詳しく聞きたいですね」

「同じ境遇の奴見つけたんですよ、さーて!ちょっくら打ってくるかな!」



そう言うと、彼は走って行った。



「…同じ境遇…ねぇ」



少年が呟いた。






To be continue...


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