コツコツと私が歩く度に、コツコツと同じように音がする。

そんな足音にハアと大きく溜め息をつくと、その姿を睨みつつ振り向いた。

対する彼は相変わらずのご様子で、いつも以上に腹立たしい。



「溜め息をつくと幸せが逃げてしまいますよ」

「誰の所為だと思いますか」

「おや、僕の所為だと?そもそも逃げてしまう幸せがありませんでしたっけ」

「口は災いの元という諺をご存知ですか」

「Least said, soonest mended…ですかね」

「あら、素敵な発音ですこと」

「それはもう、僕は優秀ですから」



胡散臭い笑顔を浮かべつつ自賛する言葉を平気で吐く姿にますます苛立つ。

もっと腹立たしいのが彼が口だけでなく実力が伴っているということだ。

この性格を除けば、容姿端麗、頭脳明細、戦闘スキルだってある、所謂非の打ち所がないというやつだ…性格を除けば。



「何か失礼なことを考えているようですね」

「そう見えたならそうで宜しいんじゃないですか?」

「君はもう少しその捻くれた性格を直すべきですね」

「その言葉、そっくりお返し致します」

「全く、そんな様子だから彼は振り向いてくれないんですよ」

「・・・」



思わず無言になる。

そんな私に、彼は笑みを深くする。







「何で知っているんだ、と言いたげな顔ですね」

「言いがかりはよして下さい、大体彼って誰ですか」

「おや、それは君が一番よく知っているでしょう?優しいですものね、彼」

「…何が言いたいんですか」

「いいえ、ただ忠告したいだけです…早くしないと彼、結婚してしまいますよ?」



冷静さを保つつもりがあからさまに反応してしまい、その反応を彼は楽しむように笑む。

何と文句をつけようが愚かなのはきっと私の方だ、そう思うと、悔しくて泣きそうになり、キュッと唇を噛み締めた。



「大きな…お世話です」

「それは失礼しました」

「っ悪いなんて…思ってないくせに…!一体何がしたいんですか?!」

「別にこれと言ってしたいことはありませんよ、ただの暇つぶしです」



そうだ、こいつはこういう奴だった。



「暇つぶしに弱い者弄りですか、本当にいい性格していますね」

「そんなに褒めてくれなくても結構ですよ、まあ悪い気はしませんが」

「…ほんっとうにいい性格してますよ貴方」

「強いて言うならば、まあ、君のことが気になるから、とでも言っておきましょうか?」

「…それは、虚言と取って宜しいのですね」

「さあ、どちらでしょうね?」




真紅と藍の眼が細められ、彼の口元が上がる。

ああ、こういう笑い方は嫌いだ。

もう話していても仕方ないと思い、彼に背を向け歩き出そうとする。

それと同時に、彼独特のあの笑い声が聞こえ、名前が呼ばれる。



「梨音」

「…なんでしょう、骸様」



こう呼ばれてしまえば、立ち止まらないわけにはいかない。

仮にも上司と部下、そこら辺の常識も、一応は持ち合わせている。



「どうして、僕が君のことをこんなに知っているか、知りたくはありませんか?」

「…聞きたくないと言っても、仰るのでしょう?」



私の嫌なことを進んでやりたがるのが彼だ、私がどう答えようとその訳を話すのだろう。








「僕が、ずっと君を見ていたからですよ」

「と言いますと?」

「まあ、君の行く先行く先を見守ったり、クロームとの会話を少し聞かせて貰ったりとかですかね」

「・・・」





この時の会話で得たことと言えば、彼がストーカー予備軍だったということぐらいだった。










その男、ストーカーにつき
(おや、これでストーカーなんですか)
(そうかどうか決めかねるから予備軍をつけてあげるんです)
(そうですか…ではこれからは堂々と君を見守っていましょうかね)
(やめて下さい)



title by Aコース



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