いつもと変わらないこの建物の中で、ソワソワと落ち着かない空気が漂う。
それは私も同じで、先程まで上司への書類を持っていた両の手を少し大げさに振り、鼻歌まじりに歩いている。
今日は我らが親愛なるボスの誕生日で、守護者を始め当の本人以外は皆こんな調子だ。
最初は盛大にパーティーを開くつもりであったが、「忙しいし、俺の為にそんな時間割いて貰うのも悪いから」という彼の希望で敢え無く断念。
しかし、そんなことで折れる守護者達ではなく、右腕である彼の発案でサプライズパーティーを行うことになった。
今頃、発案者である彼は着々と準備を進めているのだろう。
まあ、彼のことだ、きっと抜け目はない筈。
私はというと一応直属の上司である守護者の一人と先程頼まれていた仕事を終わらせてきた。
ファミリーの仕事のついでにその準備を始めた彼は「あいつ驚くだろうな?」なんて暢気に笑っていた。
部屋に入ると、すでに準備は整っており、後は主役を待つばかり。
それでも先程部屋に入った時に見た書類の数を思い出せば、此処に来れるかどうか不安なところだが、彼についている家庭教師のことを考えれば、杞憂に終わることだろう。
皆で他愛のない話をしていると、コツコツと足音がする。
きっと音の主は本日の主役なのだろうと、皆が笑顔をつくった。
扉が開く音と共に、パンッとクラッカーが弾ける音がする。
キョトンとした彼の前に立つと、私は両手いっぱいの花束を彼の前に差し出し、笑顔で言った。
「お誕生日おめでとうございます!ボス!」
私の顔を見た途端、彼の大きな瞳に雫が溜まり、驚いたのか嬉しかったのかまあ後者だろうが、まだ少し幼さの残る顔にいっぱいの涙を流し始めた。
そんな姿に数名が焦り、数名が笑顔で彼を宥め始めた。
守護者の一人が「やっぱり君は君のままなんですね」なんて言った戯言は、貴方には聞こえていたのでしょうか。
泣き虫なボスに花束を
(いつまでも優しい貴方のままでいてね)
title by Aコース