とろけるようにあまーいチョコレート。ふわふわのマシュマロ。外はさくっとしてるのに、なんだかしっとりしてるマカロン。キャンディーだってケーキだって、甘いものはだーいすき。だって女の子なんだもの、仕方ないでしょ?今日はそんな私の幸せな日、学校が甘い匂いでいっぱいになる素敵な日。先生たちだっていつもは厳しいのに大目に見てくれる。まあ、自分にくれる子たちがいるのだから、規制は出来ないよね。普通女の子だったら友チョコでも本命チョコでも作ってみろよって感じだけど、私は料理は全く無理。それに根っからの貰うの専門。諦めた友人たちは私に催促するのをやめ、お約束のようにチョコをくれる。窓から眩しく輝きながら沈んでいく夕日を眺めつつ、包みを開けて頬張る。甘い、美味い…一口サイズのチョコは体温に触れた瞬間とろとろに溶けていく。幸せな気分、まるでお姫様になったみたい…なんてメルヘンな気持ちに浸っていたら、隣に見慣れたヤツの姿。 「…あげないよ?」 「やだな、俺が催促すると思う?」 「だって物欲しげな目してるよ」 「してないよ、チョコならたくさん貰った」 「あらそう…」 「まあ、今年も本命の子からのチョコは貰えそうにないね」 肩をすくめて苦笑い。仮にも私はこいつの彼女だったりする。付き合ってもう三年目だけど、バレンタインデーにチョコをあげたことなんてない。それに、三年生の私たちは受験シーズン真っ只中。友チョコだって今年は少ないのに、好き好んで今年作ろうなんて思わない。もちろん、ホワイトデーだって何にも考えてない。 「今に始まったことじゃないもの」 「はいはい、分かってます…前いい?」 「どうぞ」 私の許可を得れば、前の席に腰を下ろす。手に持っていた紙袋がガサリと音を立てて置かれる。袋いっぱいのチョコレート。どれもこれも可愛いラッピングで、ビニール状の袋から覗くものは、凄く美味しそうなトリュフ。私たちの間に約束事なんてない。これまた普通の女の子だったら「他の子からチョコ貰わないで!」なんて可愛いこと言えるかもしれないが、私はそこら辺は放任主義。誕生日もクリスマスもバレンタインも、あげたいという子がいるなら貰えばいい。ホワイトデーだって、精市があげたいと思うならあげればいい。いちいち嫉妬なんて面倒くさいの、だって、彼氏ってだけでいいじゃない。精市が「別れたい」なんて言わない限り、精市は私のものだもの。 「ねえ、梨音」 「なあに、精市」 「目瞑ってくれない?」 「…顔に落書きとか」 「しないってば、いいから、はい」 よく分からないが、精市なら大丈夫だろうと目を瞑る。ガサガサと音がした後、両頬を手で包まれる。冷たい手に思わず身震いがしたが、じっと我慢。布擦れの音とともに、精市の吐息が近づく。唇に何か当たったと思ったと同時に、甘い味が口の中に広がる。びっくりして目を開ければ、いい笑顔の精市。もごもごと口を動かせば、すぐに口の中のものの正体が分かった。 「…チョコ?」 「正解、貰えないならあげればいいと思ってね」 「逆チョコってこと…?」 「そう、俺の手作り」 「え、うそ?!めちゃくちゃ美味しい!」 「それは良かった、チョコづくりなんて初めてだからどうだろうと思ったけど、案外やれるものだね」 流石優等生…勉強やスポーツだけじゃなくお菓子づくりまでこなすか…。まだあるよ、なんて机の上に箱が出され、女子のプライドなんて放り投げて有難く頂く。…本当に美味しい、もしかしたら一番美味しいんじゃないの?皆には悪いけど。 「何でだろう…お店のより美味しい気がする…」 「そりゃ市販のものには入っていないものが入ってるからね」 「…俺の愛、なんてさむいこと言わないでね?」 「それは残念」 うそ、全然残念そうじゃない。 「それにしても、どうして口移しする必要があったのよ」 「その方が何倍も美味しくなるかなって」 「妄想でしょそれ、別に変わらないじゃない」 「俺の彼女はドライだな」 「精市の彼女だからよ」 それもそうだ、なんて笑う。女の子みたいな綺麗な顔で笑う精市。夕日に照らされてますます綺麗に見えて、思わず見とれた。 「はい、じゃあ今度は梨音の番ね」 「…はい?」 「本来バレンタインは男女関係なく好きな人にチョコを渡すイベントだろ?じゃあ梨音からも俺に」 「精市のチョコでいいんでしょ?はい」 「違う違う、俺と同じようにやってくれないと」 つまり、私に口移ししろと…。 「…じゃあ、精市も目閉じてよ、見られてるとやりづらい」 「うーん、照れた顔も見ていたいけど、拗ねちゃ元も子もないもんな」 いいよと頷いて目を閉じる。毎度思うが睫毛長い…なんか負けた。口に精市のチョコを含むと、薄く開いた唇に私のものを押し付ける。精市の唇に触れた瞬間チョコが溶けて、私の口の中も甘ったるい味になった。美味しいねなんて楽しそうになる精市を見て、もう絶対やるもんかと心に誓った。 ドルチェなキスはチョコレート味 (…顔真っ赤) (うっさい、こんなの恥ずかしいに決まってるでしょ) |