「なあ姉ちゃん」
此処には私と声の主しか居ないので、“姉ちゃん”とは私のことになる。
目の前に置かれた餡蜜を食しながら、私は何と尋ねてみた。
「姉ちゃんってば、四代目とよく任務一緒だったんだろ?」
「うーん…まあそうねえ」
「なあ!やっぱ四代目って凄かったんだろ!?」
効果音にすればキラキラと目を輝かせる弟分(でいっか)を見て、少しだけ溜め息が出る。
凄かった…といえば、凄かった。
というか普通に歴代火影の中で一番人望があったとかなんとか言われてるんだから、凄いでいいんだ。
ただ、頭の中にチラつく人物は、どうにも“凄い”って感じじゃなくて…。
なんか…普通の人だった。
周りとは変わらない、普通に優しい人。
少しだけ私の背後で草木が揺れる。
あれだけやめてくれって言ってるのに、いい加減にしてくれないか。
「だからそうやって背後とらないでって言ってるじゃん」
「そんなに怒らないでよ」
「先生に後ろに立たれると恐いのよ」
「あ、それはごめんね」
ちっとも悪びれてない様子で私の横に立つ彼に、溜め息をつきつつも薄く笑った。
そんな私に彼は微笑む。
「何しているんだい?」
「んー…星が綺麗だなあと思って」
空一面に煌めく星。
アカデミー時代から、こうして夜星を見つめるのが日課になっている。
人は離れて行ってしまうかもしれないけど、星は空が曇っていたとしても、見えないだけでそこで輝いている。
なんてのが私の考え方。
その話をあの生意気野郎にしてやったら「ロマンチストなんだ」なんて鼻で笑われたんだけど。
「あ」
「ん?どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ!家でクシナさん待ってるんでしょ?何こんなとこで油売ってんの!」
「今日は別に早く帰る必要は…」
「必要云々じゃなくて、妊婦さんはやっぱり一人じゃ心細いものなの!クシナさんとか絶対に面に出さないタイプだし!」
今頃ご飯作って待ってるって。
ただでさえ身体の自由利かないだろうし。
必死に言う私に、先生はきょとんとしたあと苦笑い。
私の言葉を理解してくれたのか、じゃあ帰ろうかななんて暢気にいう。
「帰ったらクシナさんとお腹の赤ちゃんによろしく言っといて下さいね」
「了解、あ、そうだ、実は名前決まったんだ」
「えっ本当に?」
「うん、ナルトっていうんだ、自来也先生の小説から名前を頂いた」
「ナルトか…きっと真っ直ぐないい子になるよ!」
「ああ、オレもそう願ってるよ」
「姉ちゃん」
「…あっ、ごめん」
思いっきり思い出に浸ってたらしい。
此方を不思議そうに見るその顔に、彼の面影を見る。
あの時私が言ったあの言葉は、本当になった。
本人は実感できなかっただろうけど、多くの人から祝福され生まれてきたこの子は、本当に真っ直ぐに育った。
逆境なんて跳ね除けて、ひたすら真っ直ぐに。
まあ、彼と彼の奥さんの子供だもの、真っ直ぐ育たないわけがない。
「なんだよ人の顔じろじろ見て」
「うーうん、なんでもない」
「なあ、四代目の話!」
「そうだね、ナルトのいうとおり、凄い人だったんじゃない?忍び的にも人柄的にも」
「”じゃない?”って…なんで疑問系なんだよ」
「私は、凄いってそんな簡単な言葉で片付けたくないから」
誰よりも里を思って、自分の命を犠牲にして、息子に全てを託した人。
凄いじゃ駄目なの、言葉じゃ言い表せないの。
凄いことは事実なのだけど…。
「なあ、もしかして姉ちゃんってば、四代目のこと好きだったのか?」
「好きとかそんな次元じゃないよ」
「え、じゃあ…愛してる?」
「違う違う、あの人に恋愛感情なんて抱いたことないよ」
「でも、姉ちゃんが四代目の話をする時、すっげえ嬉しそうだってばよ」
あ、やだ。
そんな顔に出てたのか。
やだなあ、この子に見破られるんじゃ私は忍びとしてはまだまだだな。
未だに生意気野郎から「わかりやすすぎ」って言われてるもんな。
反省反省。
「そうだね、私が一番尊敬する人だから、嬉しくなっちゃうのかもしれないね」
「あ、それオレも一緒だ!」
「そうなの?」
「おう!オレってば、ぜってえ四代目を超える火影になるんだ!」
四代目名指しなんだ。
無意識のうちの父親を超えようとしてるのかしら。
真っ直ぐな瞳、彼と同じ青い瞳。
大丈夫、きっとキミは彼を超える火影になれるから。
キミが夢を叶えられるまで、私が、私たちが導いていくから。
ねえ先生、クシナさん、貴方方が残していってくれたものは、私たちが守るから。
だから、だから…もし私たちが間違った導き方をしそうな時は、そっと叱ってやってください。
いつまでも迷惑をかけてばかりの生徒でごめんなさい。
お店の人にご馳走様と一言お礼を言って、店を出て行く。
慌てて横に並ぶ弟分を見て微笑んだ後、その頭を優しく撫でてやった。
夢の続きは現実で
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