いつもいつもしつこい奴が居た。

そいつはやっとこさ仕事を終えてハチノスに帰って来た俺を見て、いつもの台詞を吐く。



「ああ!ザジ、聞いたわよ、また鎧虫退治に夢中だったんだって?」

「うるせえなあ、ちゃんとテガミは配達したんだからいいだろ」

「よくない!それにこんな怪我までして…ドクターのところに早く行きましょう」



そう言って、俺の手を引き医務室へ向かう。

こいつも俺と同じBEE。

ほぼ同期で、実績は…俺の方がいいか。

初めて会った時は頼りなさそうな奴と小馬鹿にしていたが、一緒に仕事をするにつれて分かってきた。

こいつはかなりの負けず嫌いだ、そして、誰よりもこの仕事を楽しんでいる。

そんなこいつに、気づいたら惹かれていた。



「やりー!今日は私の勝ち!」

「総合的には俺が勝ってんだろ」

「…もう!こんな時ぐらい負けを認めなさいよ!」

「やなこった」



フンっと鼻で笑ってやれば、いじけた子供のように頬を膨らませる。

いつ見ても飽きねえ顔。



「…人の顔見て笑ってんじゃないわよ」

「あ、顔に出てたか?」

「ザジ!」



もう、とまた頬を膨らませる。

自覚がねえんだなきっと。

にやにやと笑っている俺に、ふうと息をつく。



「あのさ、ザジ…私この後に配達の仕事が入っとるんだ」

「へえ…で?」

「でって…それがね、二週間くらいかかる配達なんだけど…帰って来たらその…話したいことがあるの」

「俺にその二週間待ってろと?」

「そ、ういうことになるんだけど…」

「いいぜ」

「え?」



顔をあげたこいつにニッと笑いかける。



「待っててやるよ、丁度俺もお前に言いたいことがあったしな」

「ザジが…私に?」

「まあ、楽しみにしてなって」

「…うん」



そうはにかんだ後、相棒を連れてあいつは配達に出た。

あいつが帰って来たらこの想いを伝えよう、そう考えていた。

待っている二週間、俺も自分の仕事をこなした。

そして二週間経ったその日、丁度休日と重なり、俺は一日ハチノスであいつを待っていた。

が、あいつは戻らなかった。

思ったより時間がかかっているのだろうと思っていたら、三週間が経った。

流石に遅いんじゃないかと館長にも問うてみたが、今のところ連絡は無いとのこと。

そして、配達を終えて帰って来た俺の元に、コナーが走って来た。






「ザジー!」

「…何だよコナー」

「はあ、はあ…か、帰って来たんだよ!梨音が!」

「なっ!?」



コナーの話によると、あいつは鎧虫に襲われてなんとか帰還したそうだ。

しかし、怪我をしていて現在医務室で治療中。

俺はコナーが待ってと叫ぶのも聞かず、がむしゃらに走った。

医務室に着くと、そこには副館長とあいつの姿。

俺に追いついたコナーは息を整えながら言った。


「はあ、はあ…おかえ、り…梨音」

「コナー、ただいま…大丈夫?」

「うん、大丈夫」



はははと笑うコナーに、あいつは笑う。

あいつの右手にはギブスが巻かれていて、痛々しかった。

あいつは右利き、それでなかなか鎧虫を始末出来なかったのか。



「ほら、ザジも言いなよ」

「な、なんでだよ」

「ザジが言った方が梨音喜ぶから、ね?」



そう言って俺の背中を押すコナー。

…なんからしくねえ。



「その…おせえんだよ」

「ザジ!」

「あ、いや…おかえり、梨音」



こんなの俺の柄じゃねえ。

そんなことを考えている俺に、こいつはきょとんとした。

そして、次の一言で俺は凍りついた。







「あの…貴方、誰ですか…?」

「…は?」



誰ですかって、何言ってんだ…こいつ。



「お前、冗談にしてもそれはきついだろ」

「冗談って?貴方こそからかうのはやめて下さい」

「梨音!何言ってるの!ザジじゃないか、同じBEEの!」

「コナー、私はこの人と初めて会うのよ…そう、ザジって言うの…私は梨音よ、初めまして」



なんの夢だ、これ。

何でこんな他人行儀なんだよ、こいつ。



「ザジ…ちょっといいかしら」

「副館長…」

「梨音、私彼と話があるから…コナーとお話しててくれる?」

「はい、アリアさん」



そう言って、副館長に笑いかける。

俺は副館長に連れられて医務室の外へ。

未だに何が起きているか分からない俺に、副館長は悲しげな顔。



「ザジ、よく聞いて…梨音は配達から帰る途中、鎧虫に襲われたの、そして心を喰われてしまった」

「でもあいつ、ちゃんと生きて…!」

「ええ、全て喰われた訳じゃないわ…貴方の記憶だけ、喰われてしまったのよ」

「俺、の…」

「鎧虫に心を喰われてしまったものは、その記憶を失ってしまう…分かるわね?」

「なん、で…俺だけ…」



頭がぐらぐらする。

俺の記憶だけ?そんなのあり得るのかよ。

コナーや他の奴のことは覚えてても、俺のことは全く覚えてない、出会ったことさえなかったことにされてる。

そんなの…



「…あんまりだろ」



なあ、神様ってのが居るなら教えてくれよ。

俺が何かしたのか?

両親の心を鎧虫に喰われて、その仇を討つためにBEEになったのに…また、守れなかった。

また俺は、大切なものを失ったのかよ。



「何だったんだろうな…」

「え?」

「あいつが…俺に伝えたかったことって…何だったんだろうな…」



もう、悔しくて仕方なくて、副館長が居るのも構わず、俺は泣き続けた。








星になったプロポーズ
(愛していました、心から)

title by Aコース

ザジくん書きたいって言って初めて書くのが悲恋って私一体。
とりあえずありがちな自分の記憶だけなくなったって奴です。
そしてこれWJじゃなくね?って突っ込みは無しの方向で。


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