「やあ、梨音」
「…あんたも暇ね、幸村精市」
にこやかに微笑む俺に、顔をひきつらせる梨音。
うん、今日も面白い反応をしてくれるね。
「それにしてもフルネームは酷いな」
「あんたなんてそれで充分よ」
「精市、はい呼んで?」
「…脅さないでもらえる?」
脅すつもりはないんだけどまあそう取られたなら仕方がない。
とりあえず用件を終わらせなくては。
「梨音、化学の資料集貸してくれない?」
「うちのクラスには仁王も居るんだから仁王に借りればいいじゃない」
「俺は梨音に借りたいんだ…ね?」
頼むよと少し困ったように言えば、渋々鞄から取り出し俺に差し出す梨音。
なんだかんだ言ってそうやって貸してくれるんだよね。
「次の休み時間に返すよ」
「はいはい、じゃあ帰った帰った」
「そう言わずにまだ話そうよ」
「私はあんたと話すことなんてないのよ」
「どうして?」
俺が問えば、梨音が俺から視線を逸らす。
これは梨音の癖で、こうした時は嘘をついている。
俺が気づいてるってわかってないのかな?
まあ、分からない方がこちらとしては助かるんだけど。
「あんたと話すと疲れるから」
「ドキドキして?」
「違う!変にいじるでしょ」
「愛情表現だよ」
「またそんなこと言って…からかわないでくれる?」
「うーん…梨音、俺は自分に正直な人間だから、嘘は言わないよ」
「よく言うわ」
「じゃあ自分の目で確かめてみなよ」
「…は?」
梨音の視線が俺に向く。
そんな梨音に、俺は満面の笑みを浮かべた。
「俺と付き合ってくれないかい?梨音」
要するに僕は君が大好きだってこと
(あ、あんた…!)
(勿論答えはYesだよね?)
title by narcolepsy