季節はもう冬真っ盛り。
吐けば白く染まる息を見つつ、首許にあるマフラーを口元まであげる。
いつも通りの登校風景。
が、学校に着いた途端、いつもと違うことに気づく。
何だか女子がソワソワしてる。
いや、いつもソワソワはしてるんだけど、いつも以上だ。
何か今日はイベントがあったかしら。
仮にも生徒会に所属する身であるのに、これって問題だよね。
そんなことを考えながら、近くに居たクラスメイトに声を掛ける。
「ねえ、今日って何かあったっけ?」
何が言いたいか分かったようで、苦笑いしながら質問の回答をくれた。
「今日ね、仁王君の誕生日らしいよ」
時は巡って放課後。
部活もなく下校していく生徒を生徒会室の窓から見つめつつ、手に持っていた書類を整えた。
仁王雅治―我が校屈指の部活である、テニス部のレギュラー。
今日はそいつの誕生日。
まあ、確かに女子が騒ぐわけだ、あいつファン多いもの。
面識が無い訳ではない、寧ろもうかなりの知り合いである。
同じ生徒会所属である柳生君とよく一緒に居ることが多いから、彼への用件ついでによく話したりはする。
話したりはするけど…。
「(今日、誕生日だったんだ…)」
そこまで深い付き合いをした訳ではないから、知らないのは仕方ないと自分で納得。
まあ、知っていたとしても「おめでとう」ぐらいしか言えないのだけど。
がらり、と音を立ててドアが開かれる。
其処に居たのは柳生君。
今日は一緒に書類整理をする予定だったから、まあ彼が来るのは当然。
「すいません、遅くなってしまって」
「ううん、大丈夫大丈夫」
気にしないでと一言言えば、ホッとした顔で彼が私に近づく。
そして、机の上にあった書類を手に取る。
「これを整理すれば宜しいんですね?」
「うん、でもその作業は本人にやって欲しいかな」
私の言葉にキョトンとする柳生君。
そんな顔に、口の端を少しだけ上げて言う。
「気づいてないと思った?仁王」
「…なんじゃ、気づいとったんか」
「まあね」
それは残念、と言うと、掛けていためがねを外した。
「こんなところでどうしたの?柳生君は?」
「柳生は今コートで女子の相手をしとる…今日ばかりは手に負えんでな」
「…あぁ」
納得、同時に柳生君に深く同情する。
「なあ、窪塚」
「何?」
書類の整理を再開すると、当たり前のように椅子に座り、頬杖をつきながら此方を見つめる彼。
「お前さんは…言ってくれんのか?」
「何を?」
「分かっとるくせに、いじわるじゃのう」
「もう言われすぎて飽きてるかと思いまして」
そう言ってにこやかに笑えば、肩を竦める仁王。
「お前さんからが是非言われたいんじゃが」
「他の子となんら変わらないでしょ?」
「俺は、お前の声で、お前の口から聞きたいんじゃ」
そうハッキリと言い切る仁王。
視線を送れば、真剣な彼の顔が其処にはあった。
今度は私が肩を竦めると、書類を机に置いて、彼の方に向き直る。
「誕生日おめでとう、仁王」
「…ああ、有難う窪塚」
そう言った仁王の顔は、何だか嬉しそうに見えた。
キミだけ
Happy birthday!!
12,04