久しぶりに会った彼は相変わらずで、私の姿を見ると照れて笑った。
「久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりです」
彼が近づけば私との身長差は明らかで、そういえば彼はこんなに大きかったななんて考える。
「元気にしてたか、佐須模」
「土門くんこそ、お元気そうでなにより」
「まあな」
相変わらずな彼に、思わず頬が緩む。
彼もまた、帝国から雷門中に移った一人。
帝国に居る時から、よく話をしていた。
「最近、鬼道とはどうだ?」
「…そんな意地の悪い質問するなんて悪趣味だわ」
「ああ、禁句だっけ」
ごめんごめんなんて誤るが、本気に見えない。
まあ、そこが彼の憎めないところでもあるんだけど。
「一族とかそういうの俺、よくわかんないけど…もう少し素直でいいと思うなー鬼道も佐須模も」
「…まあ、参考にするわ」
「うんうん」
参考にしても使うところはないんだけど。
なんて言ったら、彼は怒るかしら。
「そういえば、音無がお前が元気がないって心配してたけど…大丈夫か?」
「…そのことなんだけど…」
言いにくそうに言えば、「言いたくなかったら言わなくてもいいぞ」と優しい言葉。
そんな彼に「聞いておいて欲しい」と言えば、「わかった」と返事をしてくれる。
「…戦国伊賀島中って知ってるよね?」
「ああ、試合したからな」
「風魔小平太、分かる?」
「ああ、MFの」
「私、彼と婚約するの」
「は?婚約?」
土門くんが心底驚いた顔をする。
それもそうか。
彼は、本当の私の想いを知っているのだから。
「え、だってお前…鬼道のこと…」
「恋愛と結婚は違う、そういうことよ」
「そういうことって…お前そんな簡単に」
「最初から分かっていたことなのよ…彼に…鬼道有人に会う前から…」
きっと、生まれる前から決まってたんだ。
こういう運命だったんだ。
だったら、受け止めようじゃないか。
「…土門?」
第三者の声がする。
土門くんと一緒に声の主の方を見れば、其処にはずっと会いたかった彼。
「鬼道…」
「と…苑葉…?」
「お久しぶりです」
「ああ、久しぶり」
「今日はどうして?」
「たまたま、近くを通ったからな」
彼が歩み寄ってくる。
そう認識した瞬間、鼓動が高鳴る。
紅かった彼のマントは青色に替わり、帝国とは違う制服に身を包んでいる。
「似合ってるわ、雷門の制服」
「そうか?」
「佐須模も雷門の制服似合いそうだよな…お前も転校してくるか?」
「私は…帝国に入る時も無理を言ったから」
そりゃ残念、なんて言う土門くんに微笑みかける。
行けるものなら、本当のところ凄く行きたい。
口には出さないけれど。
「そういえば鬼道」
「なんだ、土門」
「佐須模な、戦国伊賀島中 の風魔と婚約したんだって」
土門くんがそう言った時、彼の表情が変わったのが分かった。
ゴーグル越しでも分かる、彼の紅い瞳が見開かれていることが。
なんだか嬉しかった、そんな風に反応してくれることが。
「本当、なのか?」
「ええ、先日決まったの」
「…そうか」
そう一言呟いて、彼は何も言わなくなった。
本当はね、少しだけ期待したの。
婚約なんてやめろって、止めてくれることを。
でも、それは凄くむしのいい話だってことは分かっている。
私がそう言わせないようにしたんだもの。
それでも、唯一の救いだったのが、きっと彼が「幸せになれ」なんて言葉を言わなかったことだ。