襖の前で失礼しますと言えば、入室の許可が下りる。
「お母様」
「苑葉さん、此方へ」
自分の前に座るように促される。
向かい合うように母の前に座れば、すっと何かが出される。
「…これは」
「貴方に縁談です」
「縁談…?」
「もっとも、もう旦那様同士の間で決まっている話ですが」
「あの…どういう意味でしょうか?」
すっと紙が開かれる。
「貴方の婚約者です、苑葉さん」
カポンと鹿威し独特の音が響く。
庭は見事な庭園で、その情景にうっとりとする。
「随分気に入ったようだな」
思わず我に帰る。
そして、目の前の人物に微笑みかける。
「いつ来ても落ち着くのよ、此処は」
「そうか」
凛とした佇まい。
いつ見ても、育ちの良さが滲み出ている。
「にしても、まさか小平太が苑葉と婚約なんてなー」
「少し黙らぬか、才次」
「はいはい」
私の婚約者であり、幼馴染でもある風魔小平太。
その小平太の隣に居るのが、霧隠才次。
小平太繋がりで彼も半ば幼馴染状態である。
「婚約と言っても、父上達が勝手に決めたものだ」
「でも、もう決定事項なんだろう?」
「ええ、まあそうね」
そう言う私に、小平太が視線を送る。
「でも、満更でもないんだろ?」
「…まあ、こうなる気はしていたからな」
そう言う小平太の言葉に、思わず苦笑い。
何となくそんな気はしていた。
嫁に行くなら小平太の家だろうって。
まさか、本当になるとは思ってもいなかったけど。
「あ、そういえば」
才次が何かを思い出したらしい。
「帝国の鬼道、雷門中に転校したらしいな」
「ああ、そうらしいな」
「あれ、苑葉って帝国だよな…鬼道のこと知ってるか?」
まさか、こんなところで彼の話をふられるんなんて思っても居なかった。
準備もしていなかったから、思わずどもってしまう。
「え、ええ…そうね、彼、有名だったから」
そう困ったように言う私の顔を、小平太は見逃していなかった。