話がある、と彼に呼ばれた。
先日あのような感じで走り去ってしまったから、私的には気まずい。
が、彼はそうでもないらしく、いつも通り接してくる。
そんな彼の優しさに甘えてしまう自分が、何だか滑稽に見えた。
手に入らないと分かっているのに、どうして諦めきれないのだろう。
放課後、彼に呼ばれた教室に行けば、どこか遠くを見るような眼差し。
「こんにちは」
「ああ、わざわざすまない」
「このくらい、構わないわ」
ああ、可愛くない。
いや、可愛くする必要なんて、ないのか。
「何か、大事な話でもあるんでしょう?」
「ああ」
私の方に歩み寄ってくれば、まっすぐと瞳を見つめられる。
ゴーグルの奥にある紅い瞳に、私は目が離せなくなる。
ああ、私はこの瞳が大好きなんだ。
「雷門中に、転校することにした」
「雷門…」
彼の話によれば、怪我をした仲間達の代わりに世宇子を倒すべく、雷門中のサッカー部の一員になるそうだ。
雷門中の噂はかねがね聞いている。
無名の弱小チームから、帝国を倒し、フットボールフロンティアに出場が決まった。
キャプテンである円堂くんも、一目でいい人だと思った。
ああ、彼だ、彼がこの人を救ってくれたんだ。
「そう…」
「…少しは、寂しいとでも思ってくれるか?」
「ええ、寂しいわ」
ポツリともらした私の一言に驚く。
可笑しいことなんて何一つ言っていない、全て本音だ。
「そんな風に思ってくれるとはな」
「私だって人間よ、感情だって持っているわ」
「嫌われていると思っていたからな」
「嫌ってなんか…いる訳無いでしょう」
此処で好きと伝えられたら、どんなに楽なのでしょう。
それは、赦されないことと同時に、彼の重りになってしまいそうだ。
やっと掴んだ彼の道、私は邪魔したくない。
「たまに此方にも顔を出す…だから」
「…分かってるわ、無理…しないで」
「保障は出来ない」
「約束して」
傍に居れない分、何か貴方との繋がりが欲しい。
そう思っている私は、かなりずるい。
「…わかった、約束しよう」
「ええ」
私が嬉しそうに笑えば、彼が手を差し出してくる。
その手を握れば、彼の手に力がこもる。
ああ、このまま抱きついて「行かないで」なんて縋ってみたいなんて、私、凄く不謹慎なこと考えてる。