彼の家、鬼道財閥と、私の家、佐須模家は特別仲が悪い。
いや、正確に言うと、私の家が鬼道家を毛嫌いしている節がある。
佐須模家は旧家である。
いつも前線に立っていた佐須模家が後退したのは、鬼道財閥の出現。
と言っても、佐須模も随分衰弱してきたというのが事実だ。
そんな状況を、私の父を初めとする一族の人達は赦せないらしく、一方的な敵意を向けている。
私が知っている彼の義父は悪い人でない、寧ろ温厚でとてもいい人だ。
佐須模の者である私にも、優しく接してくれた。
そんな彼の態度も気に食わないらしく、「優位に立ってからと偉そうに」なんて嫌味を吐く。
このような状況であるから、私は幼い頃から「鬼道には負けるな」と言われ続けてきた。
私自身勉強をしたりするのが好きだったから良かったのだけど、何でも彼と比べられるのが嫌でたまらなかった。
「苑葉、今回の試験どうだったんだ?」
「はい」
成績の書かれた紙を差し出せば、父は顔を顰めた。
見ているところは順位。
そこには、はっきりと「2」の文字。
「2位か」
「…はい」
「まさか、1位は鬼道の者じゃないだろうな?」
「・・・」
黙り込んだのを肯定と取ったのか、あからさまに溜め息をつかれる。
お父様、私、2位でも凄いと思うのです。
あの帝国で、何千人と居る生徒の中で二番目なのです。
褒めて貰えると思っていた、ずっと前までは。
「苑葉、我が佐須模家の者は鬼道家の者に勝たなくてはならない…分かるな?」
「はい」
「次こそ勝て」
「…はい」
父にお辞儀をすると、私は部屋から出た。
泣きたくなるのを必死に堪えて、唇を噛み締める。
帝国に行くと決めた時から覚悟はしていた。
最初は一族中から反対された、あそこには鬼道の者が居るって。
でも、その反対を押し切って入学した。
耐えられるつもりだった、彼が居るんだったら大丈夫だと思っていた。
なのに、現実は苦しいことばかり。
どうして彼と争わないといけないんでしょう。
こんなに悔しい思いをしたって、彼のことを嫌いになんてなれない私が。
「おねえさま」
まだ声変わりなんて程遠い声で呼ばれる。
私を慕って歩み寄ってきてくれる弟に、背丈を合わせて抱きついた。
「どうしてなんでしょうね」
「おねえさま…?」
佐須模家はこの子が生まれた時、次の当主を私じゃなくこの子に決めた。
そうだからと言って私が解放される訳でもなく、家の為にときっとどこかに嫁に行かされる。
好きな人と恋愛して結婚だなんて、私にとってはもの凄い夢だった。
況してや、彼となんて絶対に赦される筈がないのだ。