ずっと叶わない夢だと思っていた。
叶っちゃいけない夢だと思っていた。
でも、今は違う。
しっかりと私の手に届く。
すぐそこにある。
雷門中に着き、一目散にグラウンドへ。
早く彼に会いたい、それだけを一心に駆け抜ける。
グラウンドで走る黄色いユニフォームの集団を見つけると、居ても立ってもいられなくて、気づいたら叫んでいた。
「…有人っ…!」
グラウンドに居る雷門サッカー部の面々が振り向く。
その中一人、有人が「苑葉」と名前を呟いたのが分かった。
土門くんはやっと来たかと言いたげな顔で、春奈に至ってはもう泣きそうな顔をしている。
私が走り出すと同時に、有人も走り出す。
お互いに手の届く距離まで近づき、立ち止まる。
「苑葉…どうして」
「…全部、けりをつけてきたから」
「え?」
どうも状況が分かっていないらしい有人に、私は微笑みかける。
「小平太との婚約、破棄してきた」
「破棄?」
「それに…お父様にも話したわ…私は有人が好きだって」
「・・・!」
「ずっと…苦しい想いをさせてごめんなさい」
私が言えなくて辛かったと同時に、有人も苦しめた。
それどころか、有人を好きになってはいけないという心の現われから、有人にそっけない態度をとったりもした。
それなのに、有人は変わらずに接してくれた。
「小平太に言われた…”佐須模”に一番囚われているのは、私だって」
「苑葉」
「馬鹿よね、最初からこうしていれば、もっと貴方に早く想いを伝えることが出来たのに」
ごめんなさい、臆病な私でごめんなさい。
きっと、恐かったんだ、貴方を失うことも、家族を失うことも。
どちらも選べなくて、どちらも選ぶなんて出来ないで、最終的な決定から逃げて、たくさんの人を苦しめてた。
「今なら…はっきりと言えるわ…私は、有人が好きなの…初めて出会ったあの日から」
あの孤児院で、一緒にサッカーボールを蹴った日から。
貴方以上に好きな人なんて居なくて、そう思えたのも貴方が初めてだった。
「本当に…馬鹿でごめんなさい」
「…苑葉」
有人の手が伸びたかと思えば、私の体は彼の腕の中。
私の胸にはどくどくと鳴る彼の胸の鼓動がダイレクトに伝わってきて、多分、私の鼓動も彼に伝わっているのだろう。
「ずっと…こうしたかった…」
「…私も」
「これからは、後ろめたくなんか感じなくていい…堂々とお前を愛せる」
「…うん」
「…愛している、苑葉」
「…ええ、私も愛しているわ、有人」
此処までくるのが、本当に長かった。
けど、長かったからこそ、貴方への想いとか、貴方のことをもっと大切に想えるようになったの。
もうやましいことなんて何もない。
誰も目も気にせずに、正面から貴方を愛せる。
こんな当たり前のことが、こんなに嬉しいだなんて、私は幸せなんだろう。
ねえ、これまで一緒に過ごせなかった分、これから二人で埋めていきましょう。
貴方となら、どんなことでも乗り越えられそうな気がするから。