「立向居くん、立向居くん」



小さく手招きしながら名前を呼べば、とことことこちらに来てくれる。



「何ですか、梨音さん」

「ちょっと質問なんだけどね、福岡では物を仕舞うことを“なおす“って言うの?」

「あ、はい、福岡だけじゃないかもしれませんけど」

「ふーん、そうなんだ」

「それ、何ですか?」

「ん?これ?」



彼に表紙を見せるように本を持つ。

日本地図の書かれた表紙には「全国方言特集」なんて書いてある。

宇宙人との戦いが始まってから全国各地を回っているから、勉強がてら買ってみたのだ。



「へえ…方言特集ですか…」

「そう、みんないろんなところから来てるから勉強してみようって思って」

「あ、なるほど」

「でもリカちゃん以外みんな訛ってないよね…立向居くんも訛らないよね?」

「あ、はい…俺は…」



頬を赤らめながらポリポリと掻く立向居くん。

あれ、そんな照れるような内容だっけ、これ。



「その…いつか円堂さんに会えたらなあ…とか思って練習してたので…」



あ、なるほど。

なんて分かり易い理由なんだ本当。



「じゃあ、訛らない訳じゃないんだ」

「まあ、一応あの中で過ごしてましたから」

「じゃあさ、ちょっと話してみない?」

「はい?」



きょとんとする立向居くん。

本当に犬みたいだな、いつも思うけど。

本当は耳生えてるんじゃないか。



「ほらその…博多弁って言うんだっけ?それちょっと話してみてよ」

「いや、遠慮します!」

「え、なんで?」

「その…恥ずかしいじゃないですか」

「そんなことないよ」

「それに、改めて言おうとするとなんだか違和感があるんですよ」

「ふーん…」



そんなものなのか。

私にはそういう経験がないからよく分からないけど。



「まあいいや、今度戸田くんに聞いてみよう」

「ええっ戸田さんですか?!」

「え、あ、うん…所謂メル友だし」



なんだか戸田くんの名前を出した時からそわそわしている立向居くん。

何だろうと首を傾げていると、「じゃ、じゃあ!」と顔を赤らめながら言う。



「ひ、一つだけ…」

「話してくれるの?」

「はい…そ、その…」

「ん?」

「す、すいとー…よ…」

「水筒?なんで水筒?」

「いやっその…あ、俺円堂さんと約束があったので…!失礼します!」



そう言って凄い勢いで頭を下げて走って行く。

走り去って行く彼の耳が何だか赤いような気がして気になったので、その日の夜戸田くんに聞いてみた。



「ねえ戸田くん、博多弁で“すいとーよ“ってどういう意味?」

『“すいとーよ“?ああ、それ、“好きだよ“って意味だよ』

「へ?」



画面に映った文字の羅列を見て思わずショート。

知らない間に告白されて、且つその告白に水をさしてしまったようだ。

自分で言ったことだけど、水筒とボケたような結果になってしまったことに対して頭が痛くなる。



「ああ、明日からどういう顔して会えばいいのよ」



あんな告白するなんて卑怯じゃないか、なんて考えつつ、まだ起きているかもしれないとキャラバンの方へ向かった。

このことを追求したらきっと顔を赤らめて慌てるんだろうななんて、彼の可愛らしい姿を想像したら、思わず頬が緩んでいた。






不意打ち
(さあて、私はなんとお返ししましょうか)


彼が標準語を喋っている理由は管理人が勝手に考えたものなのであしからず。
これでも不可能と思いながら彼が博多弁を喋るのを今か今かと待っています←


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