「あー…みかんが美味しい」
「何やってんだ?」
こたつに入り込み、みかんを頬張っていると、ニヤニヤと笑いながら近づいてくる彼。
そして、私の許可無しに「よっ」なんて言ってこたつに入ってくる。
あー…行き成りやめてってば、隙間から風が入ってくるんだって。
「うー…寒い」
「お前さっきからこたつに入ってたじゃん」
「土門が入ってくる時に風入ってきたんだもん」
「そりゃー、悪うございました」
「…本当に悪いなんて思ってないくせに」
「まあね」
ケラケラと笑う土門。
たく、笑い事じゃないっての。
しかも私が剥いたみかんから二、三粒勝手に取るし。
あの白いの全部とるの大変なんだけど。
「お前全部取るタイプなんだ」
「まあね、気に食わないなら食べないでよ」
「いんや?別に気にしない」
そう言ってまた一粒口に含む。
ああ、あんなにたくさんあったのにもうこんな少なく…。
私はキッと土門を睨むと、ぶーぶー悪態をついた。
「大体さ、こんなところで油売ってないで自主練でも行って来たら?体鈍るよ」
「朝ランニングしてきたから大丈夫、心配してくれてありがとさん」
「…チッ」
「女の子がそんなことしないの」
「誰がさせてんだ誰が」
なんでこうゆっくりしたい時に邪魔するかな。
ただでさえ普段ゆっくり出来ないってのに。
そんなことを考えていると、足にゴツリと何か当たる。
「いたっ!」
「ああ、ごめん、足が長くてね」
「…っ、ああそうですよね、長いですよね!帰国子女はいいですね!」
「其処まで褒めなくていいって」
「褒めてないし!」
何処までポジティブなんだこの男。
はあ、と溜め息をつきつつ、傍に置いておいた携帯を手に取りピッピッと音を奏でる。
そんな私に、土門が顔を覗き込む。
「何やってんだ?」
「メール」
「誰に」
「鬼道くん」
「…なんで?」
「誰かさんが私の邪魔をするから鬼道くん家にお邪魔しようかと、鬼道くんなら何も言わず静かにおいてくれるから」
文章を打ち終えてあとは送信するだけというところで、手からするりと携帯が抜かれる。
見れば、土門が私の携帯を盗み、ピッピッと軽い音を立てて閉じる。
「何すんのよ!」
「お叱りです」
「何の」
「俺と居るのに鬼道のとこに行こうとしたから」
「いいじゃな…ちょっと!」
「だーめ」
私の携帯をこたつの上に置くと、背中に手を回しギュっと抱き寄せる。
いつもより力が入って、気管が圧迫されていく気がする。
「ちょ…ど、も…」
「お前が悪いんだからな」
「悪くない」
「いーや悪い」
「ねえ、離して?」
「無理」
「お願い離して…その、呼吸が…」
「あ、そういうこと」
やっと分かってくれたらしく、力を緩めてくれる。
でも、まだ回している腕は離してくれない。
「その…離して」
「俺と居るのそんな嫌か?」
「そういう訳じゃないけど…もっとこう…平和で居たいというか…」
「ふーん、あ、じゃあこうしよう」
「え、何…うおっ!」
体が急に揺れたかと思えば、土門の腕と一緒に倒れこむ。
私の正面には土門の顔…かなり近い。
「これ、どういう状況?」
「俺とお前で昼寝すんの、俺はお前と居れるし、お前はゆっくり出来る、一石二鳥だろ?」
「あ、まあ…うん」
「そんじゃ、おやすみ」
「…おやすみ」
とにもかくにも結局彼のペースのまま、私達は夕方までこたつで共に寝こけた訳でした。
マイペース
(ああ、これ絶対こいつの為にある)
何が間違ってるってどもさんが偽者すぎるとこだ。