私とあいつはずっと幼馴染。

親同士が仲が良かったのもあるんだけど、気が合いすぎたのが一番の理由。

あいつは私の一番の理解者で、私はあいつの一番の理解者だった。

家族よりもお互いを知っていた存在。

だけど、一つだけ違うところがある。

それは、あいつがどうしようもないサッカー馬鹿なことである。



「ああ、面白くない」



ぼそりともらす。

木戸川からあいつが転校する時は、流石に離れてしまうんだろうと思っていたのに、まさか私まで雷門に転校しちゃうなんて。

腐れ縁にもほどがある。

これだけ腐れ縁なんだから、ちょっとは私の相手をしてくれてもいいのに。



「…相変わらず楽しそうにボール追い駆けるんだから、邪魔出来ないじゃない」



グラウンドには泥まみれになりながらもボールを追い駆けるサッカー部の姿が。

その中でも頭一つ抜き出ていそうな奴。



「相変わらずあっつい視線送ってるのね、豪炎寺くんに」

「別に、そんなんじゃないし」



むすっとしてニヤニヤと笑う親友に言う。



「もう、素直じゃないんだから…私寂しいのって言っちゃえばいいのに」

「馬鹿、私がそんなキャラじゃないって知ってるでしょ?それに、恋人でも何でもないのに」

「これだけ長い付き合いなんだからもう付き合っちゃえばいいのに」

「…私だって願わくばって思うけど…あいつ絶対私のことそんな風に思ってないよ…夕香ちゃんと同じような感じ…いや、それ以下だね」

「妹に負けるか…あんたも虚しいわね」

「夕香ちゃんなら仕方ないわよ…修也のサッカーと妹好きは今に始まったことじゃないし」

「…あんたも苦労するわね」



はあと溜め息をつかれる。

つきたいのは私の方だ…まあ、もう諦めてるんだけど…。

もうどうしようもないのも分かってる。

今更女として見てなんてのも言えない。

言ったら言ったであいつのことだ、何かあったのかって聞いてくる。

そんなの絶対嫌だ、死んでも答えたくない。

何より、あいつに否定されたくない。



「なんて矛盾してるなー…」

「何がだ?」

「え、だから私の…はあ?!」



思わず声が出た。

だ、だって…目の前に居るのは…。



「しゅ、修也!」

「どうしたんだ?」

「いやだって、ああ!」



先ほどまで一緒に話していた筈の親友は、ニヤニヤしながらドアから此方を見ている。

そして、口ぱくでごめんなんて。

ごめんで済んだら警察なんていらないのよ!



「何かあったのか?」

「え、何で?」

「いや、悩んでるみたいだったからな…俺でよかったら話してみろよ」



いや、貴方のことなんですけど。

なんて言えない、言える筈、無い。



「ちょっと、修也には言えないかなあ…」

「…そうか」

「え、聞かないの?」

「無理やり聞いてどうする、お前が俺に言いたくなったらでいい」

「修也…」



なんて男前なんだこいつ。

きゅん、なんて似合わない状況になりつつ修也を見つめていると、ぽんと頭に手が乗せられた。

小さい頃から私を慰めるときに修也がやることだ。



「いつだってお前のことはちゃんと見ててやるから」

「…でも、修也はサッカーで忙しいんだから…」

「お前の為なら時間を割いてやるさ…遠慮する仲じゃないだろ?」

「…そこまで言うんだったら、老後まで面倒見てもらうから」

「ああ、それなら嫁にも貰ってやるからな」

「うん…ええ?!」



思わず叫んだ私に、修也が悪戯めいた笑みを浮かべる。

こんな風にあんまり笑わないのに…。



「約束だな」

「え、は、嫁?」

「ああ、お前の貰い手がいなかったら貰ってやるよ」



冗談でしょ?って問えば、どう思うかはお前次第だなんて。

そんなの反則すぎるでしょ。



「修也の馬鹿!」

「じゃあ俺に振り回されてるお前はもっと馬鹿だな」



ニヤリと笑われる。

ムカッとした、完全に遊ばれてる。

なんでそんな無神経なこと言うんだって殴ってやりたくなる。

拳をぎゅっと握って我慢していると、まだ練習中だったらしく、修也が教室から出て行く。

そして、出て行く途中で一言私に言った。




「お前が笑ってないと俺まで調子狂うんだからな」






悔しいけど、大好きです


title by 泣き虫ヒーロー


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