嘘をついちゃいけないなんて、誰が決めたんだろう。
人間皆嘘をつくし、嘘をつかない人間なんて寧ろ居ないんじゃないかと思う。
この世界は全部嘘に埋め尽くされてて、今僕が見ている世界ですら全てが虚なんじゃないかと思う。
まあ、こんな狂言言ってどうするんだなんて思われるかもしれない。
でもさ、でもさ?
人間皆汚いんだよ、人間皆自分が可愛いんだよ。
だってそうでしょ?
現にこんなことを言っている僕だって自分が可愛くて仕方ないんだから。
自分の利益にするために、平気で嘘をつく。
これが人間なんだよ、エゴなんだよ。
間違ってない、きっとこれが正解。
なーんて、何を考えてるんだろうなあなんて自分で笑ってみたり。
「空介」
名前が呼ばれる。
僕が振り向くと、すぐにその細い腕を僕の首に回す。
ピタリとくっつく身体を感じてから、目の前にある身体に手を伸ばす。
そっと背中をさすってやれば、気持ち良さそうに頬を摺り寄せてくる。
そして、甘ったるい声で「大好き」なんて。
笑っちゃうよね?僕たちは恋人?
答えは否だ、僕たちは恋人じゃない。
友達?そうだね、友達かもしれない。
彼女に僕への好意はあるけど、僕から彼女への好意は一切無い。
好きなの?って聞かれたら「さあ?」って答える程度。
嫌いじゃない、でも好きじゃない。
でもそれでも一緒に居るぐらい出来るだろう?
僕に彼女は必要無くても、彼女に僕は必要なんだ。
ただでさえ精神の脆い彼女を今僕が突き放したらどうなるかなんて、すぐに分かることだ。
だったら、僕が付き合えばいい、別に彼女のこと嫌いじゃないし、僕がこの言葉を言うことで彼女の救いになるならいくらでも言ってやろう。
今自分がしようとしてることは、正義なんて思ってない。
寧ろ悪だ、悪意の塊だ、心にも無いことを言おうとしてるんだから。
でもいいんだ、楽しいから。
そして、彼女の耳元にそっと唇を寄せて、いつもより少し声を低くして呪文を唱える。
「僕も、大好きだよ」
ごめんね、今から嘘をつくよ。
(君の為ならいくらでも言ってあげる)
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