数回のコール音の後、不機嫌な声で「もしもし」とお決まりの言葉。
そんな声に「俺」なんて言えば、これまたオーソドックスに「オレオレ詐欺ですか?」なんて。
でも、相変わらずみたいで安心した。
「俺だよ、土門」
「…知ってるわよ、ちゃんと登録してるんだから」
「さっきあんな可愛くないことを言ったくせに」
「うるさい」
また不機嫌な声。
こういう時はあんな顔してるんだよな、なんて簡単に想像出来る。
宇宙人の一件が終わって、俺は一之瀬と共にアメリカに。
当然彼女は連れて行ける訳が無く、「これでさよならだな」なんていたずらっぽく言えば「もう帰ってくんな馬鹿」なんて可愛くない一言。
まあ、いじっぱりな彼女用の訳をするなら「早く帰ってきてね」らしい。
こうしてたまに電話はするけど、国際電話だからお金がかかるなんてすぐきられたり。
メールは彼女が携帯もパソコンも持っていないという状況なので却下。
あまりしつこいのも駄目だなと、たまに秋に様子を聞いたりすることがしばしば。
その度に「寂しそうだよ、梨音ちゃん」なんて言われるけど、正直こんな感じじゃ実感が無い。
「最近そっちどうだ?」
「どうって…いつも通りよ、元気にサッカーやってるわ、皆」
「皆じゃなくて梨音は?」
「…私だって特に変わらないわ、一之瀬くんも元気?」
「ああ、相変わらずだ」
そう、と小さく呟く声。
本当に、一応彼氏と電話をしてるんだから他の男の話なんてするなよな。
「寂しくないか?」
ちょっと思い切って聞いてみる。
「…は?行き成り何よ」
「だから寂しくないか、俺が居なくて」
「…別に、飛鳥が居ようが居まいがそんなに変わらないし…」
「そうか?俺は梨音に会えなくて寂しいぞ」
「な、によ」
「毎日毎日会いたくて、何してるかなー元気にしてるかなって考えてる」
俺がそう言えば、受話器の向こうから息を呑む音。
こういう時の彼女は泣くのを我慢している時だ。
もう手に取るように分かる。
「馬鹿、寂しいわけがないじゃない…!」
「へえ、俺の一方的な片想いか」
「だって…」
「だって?」
ぐすりと聞こえた声は、今は聞かなかったことにしておこう。
下手につっこんだらすねるからな。
「だって、日本はアジア突破して、飛鳥もアメリカ代表で出るんだからっ世界大会で、会えるでしょ…!」
ところどころ嗚咽を交えながら言う彼女の発言に、思わずキョトン。
どこから来るんだその自信、いや、可愛いけど。
「だから、寂しくないんだから!」
「…はいはい」
「アメリカ代表に選ばれてなかったら、私もう一之瀬くんの彼女になってやるんだから!」
なんてこと言うんだこいつは。
「絶対世界大会で会うんだからね!」
「ああ、お前もちゃんと来るんだぞ」
「言われなくても行って、アメリカなんて倒してやるんだから…!」
だから世界大会で会うまでかけてくんな!なんて荒々しく電話を切られる。
耳元ではツーツーと彼女との会話が終わったことを示す音。
今頃電話機の近くで蹲って泣いてるんだろうななんて思うと、どうしようもなく愛おしくなってくる。
そして、目の前にかかった自身のユニフォームを見て、また新たに誓いを立てた。
寂しくない、なんて意地を張る君に早く逢いたい
(俺に会って泣きそうな顔をするあいつを、思いっきり抱きしめてやる為に)
title by narcolepsy
一応ツンデレ彼女です、ちょっと無理やりすぎましたが…。