イナズマジャパンが始動して、衝撃が走った。
「虎丸くんは可愛いなあ」
「わっ、やめて下さいよ梨音さん」
俺の目の前には頭を撫でられる後輩と、頭を撫でる先輩。
何だかイライラする、いや、何か胸の辺りがざわざわする。
俺の目の前に居る後輩は、この間まで同級生だと思っていた奴。
この間の告白により、一年陣は今までなんだったんだと項を垂れたものだ。
「可愛いなあ本当に」
「お、男に可愛いだなんて嬉しくないです!」
「小学生には可愛いで充分じゃない?」
「梨音さん!」
「おいっ!」
我慢の限界が来て、思わず声をかけてしまった。
当然二人とも此方を向く訳で、あの人に限ってはきょとんとしている。
何も考えずに声をかけてしまったのでどうしようか迷ったが、苦し紛れに声を絞り出した。
「そ、の…キャプテンが…呼んでた」
「俺、ですか?」
「お、おう!」
物分かりのいい奴でなんか安心した。
走って行く虎丸を目で追いかけていると、ふうと後ろで溜め息。
恐る恐る振り向いて見ると、苦笑している彼女。
「木暮くん、円堂くんが呼んでるなんて嘘でしょ」
「そ、そんなこと!」
「目が泳いでたよ」
「う…」
完全に見透かされてた。
何だか恥ずかしくて目を合わせられないでいると、ふうと溜め息が聞こえた後、俺の前に彼女がしゃがんだ。
「どうしたの、一体」
「…別に」
「あら、もしかしてヤキモチ妬いてくれた?」
「ちがっ、別にあいつ生意気だとかそんなんじゃ…!」
「そうなんだ」
「う…」
墓穴掘った、完全に掘った。
逃げられないと悟った俺は、必死で目を逸らすけど、楽しそうにその光景を笑う始末。
ああ、もう勘弁してくれよ。
「可愛いなあ木暮くん」
「可愛くなんか!」
「虎丸くんも可愛いけど、木暮くんの方がもっと可愛いんだよなー」
「え…」
「あ、嬉しいんだ」
「だから違うって!」
一瞬喜んじまった、何やってんだ俺。
「もう可愛い!」
「なっ?!」
気づいたらぎゅっと抱きしめられていて、俺の体温は急上昇。
そんな俺に「赤くなってる、可愛いー」なんて一言。
だからさっきから嬉しくないっての!
全力で抵抗しようと意気込んだその瞬間、リップ音と共に頬に柔らかい感触。
ん?リップ音…?
「な、おまっ…今!」
「ん、何々、照れてくれてるの?」
「だーかーらー!人をからかうんじゃねえよ!」
「木暮くんだっていつもからかってるじゃない…いいでしょたまにはからかわれるのも」
「全然よくない!」
「ねえ木暮くん、私木暮くんのこと好きよ」
「だから人の話を…ええ?!」
なんて爆弾発言してるんだこいつ。
しかも今までにないくらい満面の笑みだし。
「はい、じゃあ木暮くんの番」
「は?!何で俺が」
「ふーん、言ってくれないなら今度は口にでもしてあげようか」
「女の言う台詞じゃねえよ」
こいつかなりぶっとんでないか…。
ふうと今度は俺が溜め息をついて、チラリと視線を送りつつ言った。
「別に…嫌いじゃ、ない」
「うん、有難う」
「こんなのでいいのかよ」
「だって木暮くんだもの」
何だか妙に説得力がある言葉な気がする…。
そんなことを考えていると、「じゃあこれから付き合っちゃおうか」なんてとてもいい笑顔で言われたものだから、「ああもう勝手にしろよ」と溜め息混じりに言った。
そんな俺に「満更でもないくせに」なんてクスクス笑いながら、もう一度頬に唇を寄せた。
死んじゃうくらい愛してあげる
(ああもう可愛いなあ)
(だから可愛いって言うな!)
title by 水葬
木暮くんをいじり倒したかった結果。