「なーんか甘ったるい匂いだな」
「うわっ…ちょ、入って来ないでよ!」
入って来た染岡にその部屋に居た全員がぎょっとした。
今私を含めたマネージャー陣の手によって調理されていくのは茶色の固体。
なんだか騒がしくなってきたかと思えば、染岡に続いてなんだなんだとサッカー部員がぞろぞろ。
「お前ら、何やってんだ?」
「え、円堂くん…!」
「あ、貴方たちっ練習はどうしたの!」
「いや、水分きれちゃって」
「え、ボトルだったら多めに用意して置いた筈ですよ!」
春奈ちゃんと一緒に円堂くんが持っていたカゴに近寄りボトルを持ち上げれば、ある筈の重さがない。
二人で顔を見合わせて部員に向き合えば、みんなが何故か苦笑い。
「その…な」
「シュート練習してたらボールが当たっちゃって…」
あははと笑う一同。
そんな彼らに溜め息をついて、ボトルの準備を始めることにした。
「ところでお前ら何やってるんだ?」
冒頭の質問に戻る円堂くん。
その他一年生たちもきょとんとしている。
事情が分かっているのか豪炎寺くんや鬼道くんたちが部屋を出るように促してくれているのだけど、壁山くんがこれまたやらかしてくれた。
「あっ、この匂い…チョコじゃないっスか!」
壁山くんの一言で一年生たちが大喜び。
「そういえば、今日はバレンタインでやんすね!」
栗松くんが思い出したように言う。
まあ学校に居たら何かしらみんなの動きで気付くんだろうけど、生憎今日は祝日。
だからサプライズでみんなにチョコを渡そうと頑張っていたのに、もう露見してしまった。
「あー…ばれちゃったか…」
「その…悪いな」
風丸くんが苦笑い。
いや、風丸くんが悪い訳じゃないんだけどな。
「いや…いいよ、どうせ後には分かるんだし」
「ほ、ほらみんな!ボトルは準備出来たから練習に行ってらっしゃい」
せかせかとボトルを渡す秋ちゃんに思わず苦笑い。
漸く静かになった調理室で、四人一斉に溜め息をついた。
「みなさーん!お疲れ様でーす!」
練習も終わり、汗と土で顔やら服やらを汚しているみんなにタオルを渡す。
そして一通り落ち着いたところで、じゃーんと効果音を口でつけながら先ほど出来上がったカップケーキを差し出す。
目の前に出されたカップケーキに、男子一同がおおっと声をあげた。
「もうばれちゃったけど…マネージャー陣からみんなにバレンタインのプレゼントです!」
「一人一個ずつちゃんとあるからね」
「あ、食べる前にはちゃんと手を洗いなさい!」
夏未ちゃんの言葉で手を洗い、渡されたカップケーキを頬張っていく。
「はい、土門くん」
「お、サンキュー!大変じゃなかったか?」
「まあね、でも楽しかったから」
それなら良かったと土門くんが笑う。
そんな土門くんの近くに風丸くんが居たのに気づくと、ポンと後ろから肩を叩かれる。
振り返れば秋ちゃんで「行ってらっしゃい」と私が持っていたカップケーキを一つだけ残して受け取った。
「有難う」と秋ちゃんにお礼を言って、風丸くんに駆け寄る。
「風丸くん!」
「ああっ窪塚」
「はい、カップケーキ」
「すまないな」
そう言って微笑む風丸くん。
うわあ、綺麗だなあなんて。
あ、駄目だ…大事なことを忘れてた。
「か、風丸くん…!」
「ん?」
風丸くんとバッチリ目が合う。
震えそうになる手に必死に力を込めて、頑張ってラッピングした箱を差し出す。
「これ」
「え?」
「その…マネージャーでみんなにあげた分じゃなくて…私から個人的に風丸くんに…」
「いいのか?」
「う、うん!風丸くんに貰って欲しいの」
「窪塚…これ一人で作ったのか?」
「え、まあ…うん」
なんか凄く恥ずかしい…。
思わず頬が熱くなり視線を逸らそうとすると、優しい声色で名前を呼ばれる。
「有難う、ゆっくり食べさせてもらうな」
またもやその笑顔が素敵で、ドキドキしすぎて声を出せず、力無く頷くしか出来なかった。
貴方だけに愛を込めて
(あー!風丸さんもう一個貰ってる!)
(ずるいですよー!)
(こらお前ら!)
(あ、穴があったら入りたい…)
最初一期二期ごちゃ混ぜだったんですが、書いてる途中で塔子ちゃんとリカちゃんに触れてないのに気付いて急遽一期に。
途中まで誰相手にするか全く決めてませんでした。