「ねえ」
「…きらい」
「まだ何も言ってないだろう」
「ヒロトなんてきらい」
俺の話を聞かず「きらい」と言い続ける彼女に思わず溜め息が出る。
姿を見ないと思ったらこんなところで膝を抱えているし、話かければ返ってくる言葉は「きらい」だけ。
「今の俺はヒロトじゃなくてグランなんだけど」
「グランなんてヒロトにはかっこよすぎて似合わないもん」
やっときらい以外のことを喋ったと思えばこれまた憎まれ口。
もう一度短く溜め息をついて、膝を抱える彼女に視線を合わせるようしゃがむ。
そして、すっと手を差し出せば、一度手に視線を移した後上目遣いで俺を見てくる。
「ほら、行こう?ウルビダたちも心配してたよ」
「・・・」
恨めしそうな視線を送り、遂にはぷいっと勢いよく顔を逸らす。
流石に我慢ならなくて、少しだけ口調を強めた。
「そんなに俺が嫌かい?」
「…きらい」
「でも一度として“大嫌い“とは言わないんだね」
「きらいだもん!」
「ほらまた、知ってる?嫌いってどうでもいいと違ってちゃんとその人のこと意識してるんだよ」
「…っ、だからっきらいなんっ…!」
彼女の台詞が言い終わらないうちに途切れる。
それは俺が口を塞いでいるからで、大きく開かれた彼女の瞳を見つめながら口を塞ぎ続ける。
目を閉じないなんてムードの欠片も無いのだけど、この際そんなことを言ってられない。
そのまま離してやろうかと思ったけど、今まで苦労した分苛めてやろうと堅く閉ざされた唇を無理矢理こじ開ける。
そんな俺の行動に驚いたのか、必死に俺の身体を押し退かそうとする彼女。
でも、性別の壁は厚く、同じ練習をしていると言っても、彼女が俺を押す手は弱々しくびくともしない。
あまりに暴れるものだから、片手で彼女の両手を掴み、もう一方の手で頭を固定する。
もう逃げられないと悟ったのか、ぎゅっと目を瞑り、頬に涙を伝わせる。
もういいかなと思い唇を離せば、目の前の彼女は目を潤ませ大きく肩を揺らす。
「な、何…!」
「君が悪いんだよ」
「わ、私じゃなくてヒロトがっ…」
「いいや、君が悪い…もう俺は充分我慢したんだ…だからもう我慢しない」
先程まで彼女の頭を固定した手を移動させ、赤みを増した頬をそっと撫でる。
「いくらきらいって言っても、俺は気にしないからね」
「きらい」はもう聞き飽きた
(だから今度は好きって言わせてあげる)
title by narcolepsy
私が書くとヒロトが変態くさくなる。