「恋ってね、相手が幸せで居てくれるだけで自分も幸せに感じられるんだよ」
前にあいつからそんなことを言われた。
またこいつはお節介をなんてからかってやった。
恋なんてまるで興味無いし、別に生きていく上で必要ないと思う。
大体自分が想ったら相手が想ってくれるなんて確証はどこにも無いわけで、考えれば考える程どツボにはまっていく面倒くさいもの。
そんなものなんでわざわざするかも分からないし、相手が幸せだから自分が幸せなんて絶対に無い。
「木暮くん」
スパイクの紐を直していると後ろから声をかけられる。
そこにはマネージャーで一応俺の先輩に当たる奴。
その手にはボトルとタオルが握られていて、はい、とボトルが差し出された。
「汗いっぱいかいたでしょ、水分補給しっかりしてね」
「…さんきゅ」
なんとか言えるようになったお礼を言えば、こいつはニコニコと微笑む。
見ていて本当に年上なんだろうかと思うことが多々ある。
「あ、汗…拭いてあげよっか」
「い、いいって!自分で出来るし!」
「いいじゃない」
俺が制止するのも聞かずに頭からタオルを被せるとわしゃわしゃと手を動かす。
それがこそばゆくて思わず笑いがこぼれる。
「わっ…ちょっくすぐった!」
「あはは、木暮くんは可愛いなー」
「かっ可愛い言うな!」
「こんな可愛い反応するのに可愛いなんて言って何が悪いのよ」
「だから可愛い言うな!」
思わずイラッとくる。
何だろう、ただ単に可愛いって言われたのにムカついてる訳じゃない…いや、それもあるけど。
「おいっ、子供扱いするな!」
「ああごめん、怒っちゃった?」
「だからそれが子供扱いなんだって!」
どうしてこう鈍感なんだこいつは。
つくづく会話が疲れる。
「ごめんね、機嫌直して?木暮くんのこと好きだからつい苛めたくなっちゃうのよ」
「なっ…好きとかそんな軽々しく言うなよ!」
「だって事実だよ?」
「ああもう!」
俺はこんなにドキドキしてるのに一体なんなんだ。
いや、ドキドキ?
なんでドキドキしてるんだ?
俺が頭をフル回転しているのを、首を傾げて見つめる。
不意に、あの言葉と一緒にあいつが言った言葉を思い出した。
「それにね、恋するとその人のことを考える度胸がドキドキして止まらないの」
なんで今そんなこと思い出すんだ。
俺には関係ないだろう。
本気で俺が心配になったのか、不安げな顔で顔を覗いてくる。
「木暮くん大丈夫?具合悪いの?」
「ちがっ…!」
反論しようとする口が動きを止める。
今俺の目の前にはこいつの顔があって、俺の額にはこいつの額が。
「うん、熱は無いみたいだね…木暮くん?」
視線があう度鼓動が高まる。
今なら口から心臓が出そうだ。
ああ、嘘だろ、あり得ないって。
こんなの、まるで恋みたいだ
(そんなの絶対認めない)
title by narcolepsy