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夏祭りのときめきについてのすれ違い

「ユキ、これから祭りに行くから家に行くまでに準備しておいて」
 返事も待たずに電話を切る。あった時になんか言われるかも、まあいいや。私が家の前に付く頃には準備が終わってるだろう。
 一時停止していた自転車をまた漕ぎだしてあいつの家へと向かう。早くしないと、間に合わないかもしれないから。間に合わなきゃ意味が無いから。
「いきなりすぎるんだけど、毎度毎度よお」
 ユキの顔にはしわが刻まれていた。これはマジで怒らせたか……?
「少しはこっちの予定も考えろよ」
 明日はみんなで祭り行くから今日は暇だー、って聞いた気がしたんだもん。
「暇じゃなかった?」
「いや、暇だけどさ」
 ならいいや、さて行こう、すぐ行こう。

 チャリで三十分、近くの図書館に止めて、祭りへ向かう。お囃子がすでに聞こえてくる。
「急に行こうなんて、どうしたん?」
 そういえば、とばかりに聞いてくるユキ。
「……そうなんだよ、あのね。ほんとにね、これはね!」
 キラキラした瞳でユキに説明しようとすると、頭を抑えられた。
「アラシ、落ち着け」
 いや、だって。素敵すぎるのが悪いんだよ。
「あのね、素敵な浴衣リア充がいたんだよ!」
 そんなことで、とでも言いたそうなユキを引っ張り屋台の方へ向かう。
「ほら、あと射的とか。くじびきとか」
「パシリ扱いかよ」
「ほら、ユキくん射的うまいし、運いいし」
 君付けすんな、と叩かれる。
「カレー売ってたから、それで勘弁」
 しゃあねえなあ、とユキは納得してくれた。いくらするか知らないんだよなー、おじさんの手伝ってた時に食べただけだし。
「さて、まずは射的だー」
「てか、いつも自分で菓子とか取れんのになぜ俺を連れてきた」
 だって、軽いものは取れても、アレ絶対重いから一人じゃ無理。
「だって、歌人形さんたちのブロマイド、欲しいんですもん!」
 歌人形というのは、サウンドールという音声ソフトであり、バーチャルアイドルのようなものだと思ってもらえば大丈夫だ。倫楽という動画サイトでかなり人気がある。というのは予備情報ということで。
 はい、俗にいうオタクです、さーせん。歌人形さんと純創作が九割を占めているんだけどね。アニメ? 全然わかんないや、なタイプの人間です。
「また、一人で取れないもんを……」
 ユキはため息をしながらも、作戦を立ててるみたいだった。
 くじ引き屋の近くにできたので移動はかなりしやすい。
「ほら、あそこのアレですよ、お兄さん」
「アラシのお嬢、手伝えよ」
 りょーかい、と敬礼してみる。このノリの良さがほんとに心地いい。お金を渡そうとするけど、その前にお姉さんに支払われた。私の分まで。
「こういうのはタイミングが大事だからな」
「わかってるよ、相棒」
 私だって、射的が苦手なわけじゃない。お菓子ならば七割くらいは取れるのだ。
 横を向いてユキと頷き合う。小さな声で掛け声をかけて、同時に撃つ。
「あー……」
 倒れたものの、落ちなかった。もう、惜しいなー。
「もう一回」
 まだ、弾はある。次で捉える、そう決意した。
 もう一度、ユキと目配せする。小声の合図、そして弾が的めがけて発射される。そして倒れ、それは落下する。
「よっしゃー! ありがとうユキ!」
 ユキに抱きついた。なんつーか大げさだなと思ったものの、なんか嬉しかったんだもん。
「それより、商品を受け取れ、商品を」
 そうだった。ユキなんかよりそっちのほうが大事だった。
 幾つかある中で、私が選んだのは看板娘三人が映っているもの。だって、初期勢可愛いんだもん!
「街中でニヤニヤすんな」
「さーせん……」
 なんとか顔を人に見せられるぐらいまで戻す。
 先に五百円を渡しておく。てか、さっきの五百円返さないとだよ、うん。
「て、やるの早いって」
 いつのまにやってるんですかお兄さん。CDなのは嬉しいんですが。どうしようか、と悩んでいると張り紙に『一度に三回やると、特別商品お付けします』の文字。なんてことだ。
「アラシー、千円出して。そして、今からカレーを買ってこい」
 いきなりユキが思い出したかのように千円を要求してくるので、渡してカレー屋を探しに行く。その前に、一旦引き止められくじの景品の確認された。後払いっすか。まあ構わないけどさあ。欲しいやつをとりあえず教えておく。まあ、全部取れるとは思わないし、金がないし。
「カレー屋さーん、これで見つかったら苦労しないけどさ」
 とりあえず、ひと通り道を歩く。焼きまんじゅう屋さんほんとに無くなってるなー。あれがなきゃ祭りじゃないだろ、と思うんだけどねー。
 ひと通り見た結果、ない。つまり屋台ではなく、屋台の奥ということだな!
 そういえば、通りにカレー屋さんあったもんね。ということで到着。インド人のおっちゃんに笑顔で迎えられた。
 しかし、ナンのやつがひとつしか置いていない。
「ナンのカレーってこれだけですかねー……?」
 そう聞くと、おっちゃんは奥にあるから取ってくるよー、と明るく言って店の方へ行った。
 少し待つと、おっちゃんは五個くらい持って戻ってきた。
 私は二つ買ってユキの元へ戻った。五百円とは、食べ物だからしょうがないか。
「あー、カステラっ、むぐ」
 言い切らないうちに口にベビーカステラを放り込まれる。
 あれ、いつものと味違う?
「変わってるのがあったから買ってみた。それと、」
 と、手渡してきたのはポスターやら何やら色々。くじ引いてくれたんだ。で、その手に残ってんのは?
「特別なやつコレだってさ」
 一体いくらユキに返せばいいんだろう?
「別にいいって、どっかでまた別のでアラシの協力必要だし」
 なんか申し訳ない。まあ、とりあえずカレー食べよう、と食事のスペースに移動。
「いただきまーす」
 声を合わせて食べ始める。ユキの驚く声が聞こえたような声がするけど、気にしない。
「なにこれ、甘いんだけど。超甘いんだけど」
「まあ、私が食べれるくらいだからね」
 そんなのにも気づかないのか、バカだな。
 食べていると、見覚えのある浴衣が見えた。
「あ、発見」
「何を?」
「浴衣リア充」
 二人でカキ氷を半分こしていいですねえ。身長差とか色々ごちそうさまです。
「なんかお腹いっぱいだからユキに残りあげる」
 中途半端に残すなとか聞こえた気がするけど、食べてくれたので何より。
「で、どれがそうだって?」
 指をさそうと思ったら、彼らはいなくなっていた。
「食べるのが遅いからいなくなったじゃないですかー」
「アラシが残した分食べたからだからな、多分」
 とりあえず、立ち上がって彼らを探すことにした。
「あれ、とか?」
 いた、金魚すくいを楽しんでいる二人が。二人共しゃがんでいるところとか、寄り添っているところとか、ほんとごちそうさまです。
 萌えポイントしかない二人の良さを思う存分ユキに語った。さて、帰ろうとしようか。そう思ったら、引き止められる。
「俺らも金魚すくいやっていこうぜ」
 しょうがない、わがままばっか言ってたからね。付き合ってあげよう。
 彼女さんは袖をまくって一生懸命やっているのがすごい可愛い。彼氏さんも普通に和服似合ってて素敵すぎる。
「私は見てるだけでいいよー」
 色々と美味しいです。ユキも見てくれは中の上という一応かっこいいという人もいるんじゃないかな、という見た目だ。とても反応に困る。
 真剣になった時の目が好き、あくまでも目だけ。真剣にやってる姿は好きだよ。
だが、金魚すくったところで持って帰れないよね? ユキの家も私の家も無理だし。
「んー、取れないなー、難しいなー」
 あれですか、NTR展開狙うんですか、潰すよ? こんな素敵なリア充は末永く爆発してくれないと困るじゃないか。
「あ、破けた」
 でも、一匹はすくえたらしい。私になぜそれを渡す、ニコニコする理由は一体なんだろう。
「お姉さん、良かったらこれ要りますか」
 私の家ペット禁止なので……。と伏し目がちに言うと、お姉さんは笑顔で受け取ってくれた。ヤバイ、顔もいいとか何このリア充素敵すぎる。そして、お兄さんの袖を引っ張らないでください、鼻血でます。倒れちゃいます。ニヤニヤが止まりません。
 あ、やべほんとに力入んないや。そのまま地面に背中を打つかと思ったけど、ユキが支えてくれた。
「サンキュー、ユキ」
「はしゃぎ過ぎだっての」
 それじゃ、帰るぞ。とユキはお姫様抱っこで私を運んでいった。暴れても更に私が恥ずかしいだけだと思ったので諦めて運ばれた。どっちかって言うと、ユキの方が恥ずかしいと思うし。
 自転車置場まで戻ってきて、やっとユキは下ろしてくれた。
「どうも、重かったでしょうに」
「まあ、大丈夫。それよか、チャリで帰れるのか?」
 心配かけてしまったみたいだけど、大丈夫。そこまで弱くないし。萌えで死ぬならある種本望だけれども。まだ死ねない。これを書くまでは。と言ったら苦笑いされてしまった。
「アラシはそういうやつだもんな」
 そうだよ、私は自分なんかより、言葉のほうが、物語のほうが大切なんだから。わかってるじゃないか。
「ほら、帰るぞ」
 結局家まで送ってくれたユキには感謝。


 さて、浴衣リア充の話を書こうか。
 面白くしなくちゃ、萌えと楽しさがなくちゃ。
 ……夜は更けていく。



TRAUMENTSさんの企画「Egg Heights」105室に入居。






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