シンドウ・スガタの幸福


 ワコの妄想に困り果てたタクトが反転して暫く。あれからタクトは、部室内でだけだが時々スガタに甘えるようになった。
 寄り添ってみたり、隣にいる時に頭をこてんと預けてきたり。甘えるとは言っても、基本的にくっついている事が多いだけで、控え目なものが多い。
 今現在も隣にタクトがいるのだが、彼はスガタに寄りかかって座っていた。自分からそうしたというのに、タクトは僅に頬を赤らめていて、何と言うか、凄く可愛い。

「タクトはわりと甘えただな」
「そんな事ないよ。ん、スガタ、くすぐったいって」

 もたれ掛かっているタクトが倒れないよう、少しだけ身体を動かして癖のある赤い髪に手を伸ばす。ゆるゆると撫でれば、タクトはくすぐったそうに目を細めた。
 ワコの一件がなければ、多分こうはならなかっただろう。きっかけをくれたワコに、感謝するべきなのかもしれない。
 スガタがタクトを好きで、タクトもスガタが好きだと言う事は大分前から互いに分かっていた。スガタはああ好きなんだと自然に納得したが、タクトは違った。
 色々な葛藤もあって、それをあっさりと認められる筈もなくて。気づかないふりをして過ごしていた所に、ワコが妄想という形で拍車をかけたのだった。
 ワコの妄想に困り果てたタクトは決心したらしく、それまでの反応から一転。素直に気持ちを認めたのである。その後のタクトは意外にあっさりしたもので、自然にスガタに甘えるようになっていた。

「……私、夢でも見てるのかな」
「現実ですよ、ワコ様」
「紛れもない事実です、ワコ様」

 一方、こうなるきっかけを作ったワコはといえば。目の前で起きている事が未だに信じられないのか、これはきっと夢よ、と呟きながらごしごしと目を擦っていた。そんなワコに、ジャガーとタイガーがすかさず、今起きている事は現実なのだと伝える。
 妄想が現実になるとは思ってもみなかったらしく、前回のキスの件からワコは動揺しっぱなしだった。動揺というか、興奮と言った方が正しいのかもしれないが。

「スガタ君とタクト君が……!」
「忙しないね、ワコは」
「そうだな」

 頬を染めながらも、どこか嬉しそうにしているワコに、スガタもタクトも苦笑を溢した。
 恥ずかしがったり興奮したり、ころころと変わる反応は見ていて面白い。

「結局、ワコの妄想が事実になっちゃったね」
「でも、こうなれたのはワコのおかげだろう?」
「だね」

 二人で顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。
 ワコの一件がなければ、きっとこんなふうに触れあったり、笑いあう事はできなかっただろう。気持ちに気づかないフリをして、普通に友達として付き合うだけに終わっていた。
 色々あったが、結果的にはスガタもタクトも満足している。
 普通なら敬遠されるであろう、男同士の恋。嫌がられてもおかしくはないのに、ワコを始めとして夜間飛行のメンバーは受け入れてくれている。時々、行き過ぎた妄想をするのは些か困りものだが。

「本当、ワコに感謝、だな」

 ワコの妄想から妙に意識をして恥ずかしがるタクトや、甘えたようにくっついてくるタクト。色んな姿を見る事ができた。
 何より、告白同然のアピールをしてもなかなか応えようとはしなかったタクトを動かしてくれたのだ。おかげで、スガタはタクトと晴れて両想いとなったわけで。
 結局のところ、ワコの暴走はスガタの幸せに繋がったのだった。

「タクト」
「ん?」
「これからも宜しく」
「此方こそ宜しくっ!」




fin.





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